1169 星暦558年 翠の月 11日 海に落ちたら(11)
「そんじゃあクリシファーナ号を浮かべて貰うよ~」
何通りかの海への入り方を使って両方の魔術回路の効果を調べ終わり、シャルロが声を掛ける。
「完全に中から水を抜かないで、取り敢えず海面に自力でちょっと浮かぶ程度で良いんじゃないか?
じゃないと沈むのに時間がかかるだろ」
クリシファーナ号の甲板にぼ~っと立っていて船が沈むのを待つのも時間の無駄だ。
「そうだね!
取り敢えず半分ぐらい中の水を空気に換えたら浮くか、試してくれる?」
シャルロが蒼流に頼む。
『別に中に全部水が入っていても海面に出しておきたければ出しておけるが?』
蒼流が指摘した。
「あ~。
一応沈む時に船の中から空気が出て来る感じも再現したいから、実際に浮ていたのが沈むか否かギリギリぐらいな感じにしてくれる?」
シャルロが頼んだ。
まあ、船が沈む時の泡とかが魔術回路で空気を集める際にどの程度役に立つのか知らんが。
と言うか、嵐とかで船が沈むんだったら波が荒くて色々危険そうだしなぁ。
下手をしたら船のマストとかが折れて落ちてくるかもしれないし、マストが折れて海の中に転がり落ちていたりすると、マストやロープとかに絡まって身動き取れなくなる可能性もありそうだ。
とは言え。
本当に荒れている海で船が沈んだら助かる可能性はどうせ余りないだろう。
それよりは、うっかり落ちたとか、暗殺モドキな感じに誰かに寝ている間に夜中に船底へ穴を開けられて船が沈んだみたいな、嵐じゃない場合での溺死防止用だと考える方が現実的かな。
暗殺モドキだったら海面に浮かんでいるのを見られたら止めを刺されそうな気もしないでもないが、真昼間にやるよりも寝ている間にやられる可能性が高いし、わざわざ船を沈めた後に残って死ぬのを確認するほどは手間をかけないだろう。
多分。
・・・だがそうなると、救命ベルトは寝ている間も身に着けてなければいけないのか??
寝心地が悪そうで嫌だな。
枕元にでも置いておいてさっと身に付けられる形にしておく程度で何とかなると期待しよう。
そんなことを考えている間に、屋敷船の隣の海面が盛り上がり、クリシファーナ号が浮かんできた。
元々海岸からは見えないぐらい沖には出ているので、港へ向かう船が通る航路側からも屋敷船で隠される場所を指定してある。
変に船が沈んでいるから助ける!!なんて寄って来られても迷惑だからな。
流石に横に船がいるのに、助けにきて救助料を請求しようなんて言う図々しい人間がいないとは思うが。
「そんじゃあ僕とウィルは甲板の上で立っていて、船が沈んだらちょっとそれから離れる感じに泳ごうとするか・・・そのまま引きずり込まれる感じに沈むように頑張ってみるね~。
海底で袋に空気が一杯になるまで待ってから上がってくるから、両方の時間を測るのよろしく」
シャルロがアレクに頼む。
傍にいてお互いの魔術回路に影響を与えてしまっては実験結果が微妙になるから立つ位置を離れようかとも話し合ったのだが、考えてみたら魔具の救命具を買うような連中が乗る船だったら1人だけが救命具を使うと言う事は無いだろう。
何人かが纏まって海に引きずり込まれてもちゃんと機能しないと困るので、一緒に沈んで行ってどちらが先に空気が一杯になるかを確認するのにも良いだろうと言うことになった。
「気をつけてな」
アレクが微妙そうな顔で言ってきた。
幾ら水の中に入っていても死なないと言われて、実際に今回の実験でも何度も海の中にそれなりの長さで潜っているのを見ているにしても、船と一緒に沈む姿を見るのはちょっと複雑な心境になるらしい。
まあ、俺としてもちょっと微妙だけどね。
そんな心境を感じ取ってくれているのか、清早がすぐ傍について来てくれているんで助かる。
「そんじゃあ船と一緒に海底に沈む感じになるよう、よろしく」
クリシファーナ号に乗り移り、船が沈み始めるのを感じて清早に改めて頼む。
『変なことをやりたがるもんだね~。
まあ、一緒に居るから心配しないで大丈夫だよ』
清早がちょっと呆れたように笑いながら応じた。
「おっと」
沈み始めていたクリシファーナ号が船尾の方に傾き、思わず甲板の縁に摑まりながら膝をつく。
そっか、船って沈む時に水平にそのまま粛々と下へ落ちていく訳じゃないんだな。
つうか、これってうっかりすると甲板を滑り落ちて船の下に引き込まれたりしたら、船の下敷きというか船の何かに挟まれたりしかねなくないか??
まあ、実際には船の上に居る人間が船を追い越して船の下まで行くことは無いんだろうけど、甲板とかに思わずしがみついて逃げ損ねる気持ちも分かって来たぞ。
さて。
沈んだらどうなるのかな?
船が沈む時の感じなんかは完全にフィクションです。
あまりにもアホなことが書いてあると正解をご指摘頂けましたら修正も考えていますので、ご一報下さいw