1165 星暦558年 翠の月 10日 海に落ちたら(7)
「へぇぇ、海に落ちた時に命を助ける救命ジャケット?
安く仕上げられたら凄く売れそうね。
安くなくても大手商会の交易船とか海軍だったら船員用に買ってくれるかも」
シェイラに今やっている開発の事を話したら売り先を提案された。
ちなみに、色々と新しい魔具開発のアイディアとか試作品を見せているので、シェイラの主張で情報漏洩が出来ない様に誓約魔術をシェイラに掛けている。
これって本人が知らなくても起動するので、うっかり誰かが聞こえる範囲で話をしようとしても胸に痛みの予兆みたいのが走るらしく、非常に便利だとシェイラに喜ばれた。
痛みの予兆が便利か??と思ったが、まあ周囲に盗み聞きされていないかを一々気にするのは面倒だからな。
盗み聞き防止用の魔具が完成したとは言え、それを使う必要があるかどうかの判断にも良いと言っていた。
盗み聞きされていると本人が気付かなくても予兆を感じるのだったら、それこそ情報部である第三騎士団でガンガン使いまくったらいいんじゃないかね?
それとも魔具での間接的な盗み聞きだとダメだとか?
誓約魔術に有効距離があるのか、ある意味実験してみたら面白いかも知れないが・・・下手に契約を破ると心臓麻痺を起こしかねない術だから、ちょっと危険かな?
まあ、それはさておき。
救命ジャケットね。
中々良い名称かも?
溺死防止用魔具という言い回しよりは良さげだ。
「まあ、どの程度値段を下げられるかは完成品が出来上がってから要検討ってやつだけどな。
どの程度使い勝手がいい物が出来上がるかも、色々と試行錯誤しなくちゃ分からないし」
「そうねぇ、生地とかも完全に防水なのって高くつくし、安いのは重いし汗をかくとべたつくしで、難しいわね」
シェイラが頷く。
そっか。
安い防水な生地って重いよな。
盗賊時代に雨の中に出る羽目になった場合は蝋塗りしたマントを被って出たが、あれって乾いていても重くて嵩張った上に、雨が降ると徐々に水を含んでマジで重くなったからなぁ。
蝋を塗るんじゃない手法で防水にした生地ってどんなのがあるのか、アレクにでも確認しないとだな。
学院長に摑まって魔術学院に入ってからは濡れるような行事は殆ど無かったし、清早から加護を貰ってからは雨の中でも濡れないし何かで濡れるようなことがあっても直ぐに乾かして貰えたから、防水加工をした生地なんてものに注意を払って来なかったわ。
「考えてみたら、海に落ちた際に空気で膨らませても中に水が入らないような生地って、汗をかいてもそれを吸わないだろうから船の上で汗をかきながら働く船員なんかは直ぐに脱いじまいそうだな」
肉体労働が主で汗を大量にかく船乗りは、真冬以外だったら日差しがあるなら上半身裸で働く事も多い。
その方が後でざばっと水を被って汗と塩水を洗い流せるから楽なのだ。
流石に貴族や商家のお嬢様や奥様が乗っている船だったら彼女たちの目につく場所ではちゃんとシャツを着ると言っていたが。
まあ、下っ端の船員までが使える程安く救命ジャケットを仕上げられるかはかなり微妙だが、士官だろうと汗でべたべた・チクチクするような上着は着たがらないだろう。
元々、一応は泳げるはずだから船が荒れたりしない限り通常は救命ジャケットを着ておく必要性が無いと思っているだろうし。
そんでもってそれなりに見た目がお洒落・・・とまで言わなくても見苦しくない様にしないと、船主とか船長みたいな上の立場の人間も着るのを嫌がりそうだ。
非常時に着る為に買っておくと言うのも悪くは無いが・・・もしもの事を考えるなら、常時船に乗っている間は羽織っておくぐらいの方が安全だと思うんだよなぁ。
まあ、そこら辺はそれこそゾロクナとか他の船長とかに話を聞いて、どの程度のジャケットだったら常時身に着ける気になるか、確認しよう。
救命ジャケットを身に付けないという選択肢は本人の自由だから、強制する必要はないが。
身に付けない物を買う人間がどの位いるかは更に微妙だが。
とは言え。避難用のボートを揃えるよりは安上がりだし場所を取らないって事で買う連中もいるかも?
どっちの方が生存率が高いかはそう簡単には調べられないが。
防水生地じゃあ洗濯も難しそう
そうなると暫くしたらかなり臭いシロモノになるかな・・・?