1164 星暦558年 翠の月 9日 海に落ちたら(6)
「やっぱこれとそれの2つがそこそこ実用的レベルで空気を集めそうだね~。
残りはダメダメだから没。
最終モデルはどっちにしようか?」
庭の池に沈めた重りの上からコポコポと上がってくる泡を確認しながら右と真ん中の試作品を指さしてシャルロが言った。
色々と試行錯誤した結果、二種類の魔術回路がそこそこ空気を集める機能を実現できた。
他に試作したのも全く動かなかったのはあるものの、最終的には最初よりはマシな程度には空気を集めるようになったのが5つ程出来上がったが・・・かなりゆっくりなので下手をしたらちゃんと海面に浮かべるクッションが膨らむ前に水を吸い込んでしまって溺れかねない。
いや、パニックしていたら即座にクッションが膨らんでも水は吸い込みそうだが・・・少なくともすぐに海面に上がってきてたら咽せててもなんとかなるだろう。
「ちなみにさ、船から海に落ちた時ってどのくらいの深さに沈むんだ?
ちゃんと泳げなきゃ溺れるってことは、泳ごうと体を動かさないと人間って沈みやすいんだろうが、最初に上から落ちた時に一気にどのくらいまで落ちるんだ?」
考えてみたら、創水機能付き水筒の魔術回路だって水を集める範囲は限定的だったからこそファンを付けて空気を動かすことで水気の多い空気を傍に寄せようと工夫したのだ。
この池の深さぐらいなら問題なく空気を引っ張って来れているようだが、もっと深くまで沈んでいたら海面から空気を引っ張れないんじゃないか?
落ちて直ぐは自分の体が落ちた際に巻き込まれた空気の泡を集めるかも知れないが、それが十分じゃなかったら不味い気がするぞ。
「船のサイズによって甲板の高さが違うからな。
何種類かの船の甲板から飛び降りて確かめた方が良いかも知れない」
アレクが言った。
そうなるかぁ。
「シェフィート商会経由で交易船に良くあるサイズ3隻ぐらいと、こないだ持って帰ってきたクリシファーナ号で試せば良いかな?
あとは・・・一応アドレアーナ号みたいな超大型船も試せないか、聞いてみて貰おうか?」
シャルロが応じる。
「甲板の高さで行ったら俺らの屋敷船もアドレアーナ号と大して違いなくないか?」
イマイチ良く覚えてないが・・・確か俺らの屋敷船って客室から外が見えるように甲板が高めなんだよね。
これじゃあ船のバランスが悪いから危険だって船大工のおっちゃんが渋っていたが、どうせ半分ぐらいは海底を進んでいる船なんだ。
沈まないための安定性なんて必要ないからと押し切ってやりたい放題やった記憶がある。
「あ、そうだったっけ?
じゃあ、適当にシェフィート商会経由で飛び込み実験をさせてくれる交易船を見つけて貰っている間に、クリシファーナ号と屋敷船でまずは飛び込み実験とこの二つの試作品を試そうか」
シャルロが言った。
「海に飛び込むのなんて全部1日で済ませちまいたい気もするが・・・まあ、もしかしたら実験にそれなりの時間が掛かるかも知れないし、アレクが協力してくれる交易船の方の手配を頼んでいる間に俺たちの方で出来るのをテストしておくか」
海でだと上手く魔術回路が機能しないとか、飛び込んだ時の深さ次第では全然駄目だとか、根本的な問題があったら交易船から態々飛び降りる必要も無いし。
「そうだな。
海に飛び込むならシャルロとウィルがやった方が良いだろうし。
とは言っても、最初に金を払って普通の船乗りか港の人夫にでも飛び込ませて、お前達二人が飛び降りた時と同じ現象が起きるのを確認してくれよ?」
池の中に落とした試作品を引っ張り上げながらアレクが言った。
「あ~。
確かに、同じ現象が起きるか試した方が良いな」
通常時は俺が海に落ちても服が濡れないように清早にして貰っているからな。
濡れないってことは水との間に結界っぽい何かを展開しているようなものだから、水の抵抗とかが違って飛び降りた際に沈む深さも違うかも。
そう考えたら、服の洗濯を面倒くさがらずに普通に何もしないでおいてくれと頼んでから飛び降りるべきなんだろうなぁ。
でもまあ、先ずは普通の船乗りのおっちゃんと比べて違いがあったら頼もう。
塩水で濡れた服ってちくちくするし動きにくいしで、うっとうしいんだよな。
店とかにも入りにくいし。
飛び降りるのと突き落とすので違いがあるのかも試した方が良さそうw