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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1152/1304

1152 星暦558年 青の月 24日 海底探索(7)

ちゃちゃっと金庫の鍵を解錠して中を開けたら、巾着袋に入った硬貨、ナイフ、そして書類。

枕元にもナイフがあったし、どうやらケヴァール子爵はかなり暗殺を警戒していたようだ。


殺されることを警戒しているなら船に乗るのも止めておけば良かったのに。

船乗りを一人買収すれば、航海用の樽の水に毒を混ぜるなり夜中に船底に穴を開けるなり、屋敷で守られている貴族を殺すよりもよっぽど簡単に船に乗っている人間は殺せるぞ?


なんだって跡取りについて揉めている貴族家の当主が実質単独で船に乗って出かけたのか、不思議だ。


金庫の横に出した書類をシャルロがそっと手に取る。

「商会の権利書と、何かの契約書数枚と・・・遺言書だね。

あと手紙も何枚か?」


ひょいっとケレナが手紙の方を手に取り、宛名を確認した。

「ケヴァール子爵の甥と、家令と・・・レディ・トレンティス宛てだわね」


おや。

レディ・トレンティスとそこまで仲が良かったのか?

肌身離さず手紙を持ち歩くなんて、色々と疑っちゃうぞ?


とは言え、船と一緒に沈んだ金庫の中に入っていたんじゃあ今回みたいな偶然が起きない限り誰にも見られずに海の藻屑になっただろうけど。


「ちょっと家令への手紙を読んでみようか。

おばあ様宛のは個人的な話だと思うし、甥へのは子爵領に関する話だろうし。

まあ、家令も子爵家に関する話だろうけどもう少し事務的な流れに関して指示を出してそう」

シャルロが言った。


良いのか?

こういう時って遺言書だけ確認して、手紙類はそれこそ脅迫用の盗んだ手紙っぽいの以外は宛先の人にそのまま開封せずに渡すものだと思ったが。


まあ、貴族家の家令への手紙って言うのは手紙と言うよりも指示書みたいので、あまりプライバシーを考慮する必要はないのかな?


『アルベルト。

お前がこの手紙を読んでいるということは儂が死んだということだろう。

甥のフィルグと連絡が取れなくなって2月経つが、ノルダスの方に居るという情報を得て、例年の夏の休みを利用した振りをして自分で迎えに行くことにした。

息子のジャルダに任せたのではケヴァール子爵領は借金にまみれ、領民は困窮に喘ぐことになる。

何がなんでもフィルグを説得して跡継ぎとして戻ってきてもらわねばならん。

もしも儂が死に、フィルグも見つからない場合は爵位を王家へ返上するよう遺言書には書いてある。

ケヴァール子爵家の歴史を裏切る行為だと思うかも知れぬが、ジャルダの排除に失敗した儂に出来る唯一の償いだ。

王家の代官に協力して欲しい』


何かその後うだうだと若い日の思い出についてもちょっと書いてあったが・・・爵位返上とは思い切ったことをするね。

フィルグとか言う甥の他に爵位を継ぐのにふさわしい親族が居なかったのかね?


「考えてみたら、遺言書で跡取りにしないって明記したら息子って廃嫡した扱いになるのか?

フィルグとやらが居なかったら爵位を返上しますって遺言書に明記してなかった場合

その甥が死んでたり行方不明だったら息子が爵位を継ぐことになるの?」

イマイチ貴族の相続に関しては詳しい事は知らないんだよな。


「遺言書には跡継ぎに指名された人物が死亡もしくは行方不明の場合は誰それに継がせるって順番を明記するから2番目や3番目に指定されてたら廃嫡では無いけど、『息子は廃嫡したので継がせない』と明記すればそれで息子は廃嫡扱いだね。

確か、ケヴァール子爵家って甥と息子の他はかなり遠い親族しかいないから、甥がダメだったら王家に返す方が良いと思ったんだろうね」

シャルロが肩を竦めながら言った。


へぇぇ。

まあ、確かに祖父の又従兄弟の孫とかぐらいまで離れた関係だったら血は繋がっているけどほぼ赤の他人って感じだろうし、そう言う意味で言ったら王国内の貴族ってある程度は皆血が繋がっているから誰が跡継ぎになるかで泥沼な取り合いになるかもだしな。


いつまでも領主が決まらない状態が続き、決まっても領地に来たことともないような遠縁の誰かが単に金蔓として領地と領民は金を絞る取る対象としか見ないんだったら、王家に差し出す方がまだまともな統治をして貰えそうだ。


遠縁の親族がそこまでクソッタレかどうかは分からんが、暮らしたことも無い地だったら愛着は無いだろう。大切にするよりは効率重視な収入源扱いになっても不思議は無い。


そう考えると、良心的な貴族って本当に領民の事を家族っぽい感じに大切にしているんだなぁ。

レディ・トレンティスもかなり領地のおっさんや爺さんたちと仲良かったもんな。


グアナス男爵の愛人みたいに領主に領民が奴隷のごとく踏み躙られ酷使される可能性があることを考えると、領民を大切にする領主としてはロクデナシが自分の跡を継ぐ可能性は潰したいんだろう。

王家の代官としてちゃんとした人間が来るかどうかは不明だが、王家の資産の管理と言う立場なんだから、どうしようもない貴族が領主に収まるよりはまだ何とかなる可能性が高い。


「前当主の甥は現時点で息子と跡取り争いをしているんだから、戻ってきているよね?

と言うことは、ケヴァール子爵と入れ違いになったのかな?」

アレクがちょっと首を傾げながら遺言書に手を伸ばした。


「じゃなきゃ、態と当主が殺されやすい状況に自分から出ていくように誰かに騙されたかだな」

王宮の遺言書も都合の良いタイミングで水漏れで読めなくなっていたんだし、嵌められた可能性が高いな。


誰が騙したのか、ちゃんと調べないと甥のフィルグとやらもこの遺言書で子爵位を継いでも長生きできなそうだ。

廃嫡手続きが宣言と遺言書だけだと微妙そう・・・

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警戒していたのに殺されちゃったのか 相当な腕利きが雇われた?
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