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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1151/1303

1151 星暦558年 青の月 24日 海底探索(6)

『クリシファーナ号』

船の中を見て回り終わったので船の外側を見て回ったら、フジツボに覆われつつあったがまだしっかりと名前が読み取れた。


「うわぁ。

知っている人の船を見つけちゃうなんて微妙だね。

中に誰も残っていなかったのは良かったけど」

シャルロが顔をしかめながら言った。


「ケヴァール子爵を個人的に知っていたのか?」

普通だったら貴族家の当主なんぞそうそう会うもんじゃないが、シャルロはなんと言っても侯爵家の令息だ。

下手をしたら現実的な社会的地位は同じ程度かシャルロの方が高い可能性もある。


シャルロは親父さんが押し付けようとした爵位を断ったらしいから、法律上では子爵家当主の方が上ではある。

とは言え、なんと言ってもシャルロは侯爵家の当主と次期当主に溺愛されているし、高位精霊の愛し子でもあるのだ。

それこそ何かの拍子にどこかの子爵家当主とシャルロが喧嘩する羽目になったら、シャルロの方が王宮や商業ギルドから忖度される可能性は高そうだ。


シャルロはそうそう人とぶつかるような奴じゃないけどね。


「実家とか王宮のパーティで何度か会ったことがあったかな。

確か、おばあ様とそれなりに仲が良かったんだよね」


へぇぇ。

レディ・トレンティスと仲が良かったってことはそれなりに真面な人間だったのか。

なんでそんな真面な当主が船で海に出て死んだのか、不思議だが。


「ちなみにその跡継ぎ問題ってどんな話なんだ?」

貴族の場合は基本的に次の爵位を誰に譲るかとか跡継ぎが未成年だった場合に誰が後見人になるか等の遺言書は王宮に常時預けなきゃいけない筈なのだが、当然この遺言書は変更可能だし、変更する際に法令違反が無いかとか、国王がどうしても認めがたいような人間が指定されていないかなんかを確認するプロセスもあるらしく、場合によっては複数の遺言書が存在するなんて事態が起きてどれが正式に有効な物なのかが争われる事なんかもあると聞く。


更にそれに『王宮に提出する前の書類が当主の捺印諸々を含めて準備されていて、提出する手配中だったのにその前に死んだ』なんて場合もどれを優先するかで争われることもある。


ただでさえ揉めているのに更にここに新しい遺言書が出てきたりしたら、面倒極まりないから出来れば金庫の中は家族への手紙程度な物だったら嬉しいんだが・・・そんな物を防水まで施した金庫に入れてある可能性は低いかも?


借金の証書とかだった方がまだ平和なのだが。


「確かねぇ、ケヴァール子爵の息子ってちょっと金遣いが荒い上にお馬鹿な人だから、子爵としては息子を廃嫡して甥を跡継ぎにするって手続きをしている最中だった筈なんだよね。

その途中で行方不明になったから、正式に廃嫡と跡継ぎ変更を承認した書類が無くなっちゃって騒ぎになってるんだったと思う」

シャルロが肩を竦めながら言った。


「・・・そう言う書類って王宮側とケヴァール子爵側とで二通あるもんじゃないのか?

写しがなくちゃ、最初に遺言書を見つけた親族が都合が悪い物を捨て放題じゃないか」

どうせ遺言書をしまっておく場所なんて限られているのだ。

本人しか見つけられない場所に仕舞ったのでは本人が死んだときに誰もそれを見つけて読めないという問題が生じるから、どうしたって遺言書は書斎の金庫なり弁護士の金庫なり、ある程度決まった場所に仕舞われている必要がある。


となったらそんなのを盗み出して破棄するのも、偽物と取り換えるのも容易だ。


だが、そんな依頼を盗賊シーフギルド時代に受けた記憶がないから、手を出しにくい場所にもう一つ写しがあるんだとばかり思っていたんだが。


「ウィルの言うとおり、本来なら2通あって、1通は王宮で保存している筈なんだけどね。

王宮側で水漏れがあったと言う話だ。

引き出し一つ分の書類が破損して一部読めなくなってしまったらしいよ」

セビウス氏が教えてくれた。


嘘くせ~。

王宮に水漏れなんて、ありえんだろ。

しっかし、子爵家の跡継ぎ程度の問題で王宮に忍び込むほどの価値があるとは、意外だな。

いや、忍び込んだんじゃ無くって入る権利がある人間を買収したのかな?


「ちなみに、シャルロもケレナもシェフィート商会も、次のケヴァール子爵が誰になるかに利害関係があったりしないよな?」

屋敷船に戻り、リビングとして使っている部屋のローテーブルに沈没船から取ってきた金庫を置きながら部屋の中の人間に尋ねる。


ズロクナやパディン夫人はいないので、シャルロ、ケレナ、アレク、セビウス氏と俺だけなんだけど。


「勿論。

まあ、個人的には僕はケヴァール子爵の甥っ子の方が好きだけどね」

シャルロが肩を竦めながら応じる。


「シェフィート商会はケヴァール子爵領と特に大規模な取引はしていないから、あそこの跡継ぎが誰になろうとさして関係はない。

個人的にはバカは嫌いだが」

セビウス氏も応じる。


まあ、馬鹿が好きな人間は少ないよね。


「そんじゃあ開けるぞ」

証拠品としてはそれこそアファル王国に戻ってから王宮の役人の前ででも開けた方が無難かも知れないが、どうせ沈没船から持ち帰るまでに開けたかどうかなんて役人には見ても分からないのだ。

変なヤバい書類が入っていたら握りつぶすことも考えられるし、取り敢えず筈は開けて中を確認しよう。



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― 新着の感想 ―
やっぱりヤバそうな書類かぁ。 まあ精霊の加護持ちが二人ってのは、この書類に対して下手な権威よりも凶悪ですから信用性は上がるかも。 序に利益関係者じゃないし、逆恨みを原因とする復讐を企もうものなら「死ん…
>シャルロはそうそう人とぶつかるような奴じゃないけどね シャルロと敵対しようと思う命知らずは もっといないでしょうからね
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