1150 星暦558年 青の月 24日 海底探索(5)
今回の船は甲板上に小さな小屋っぽい部屋、下の上部にガラス張りの窓がある部屋にベッドと机があると言う、かなり豪華な作りになっていた。
後部にはトイレや小さめな船倉っぽいスペースもある。
客室部分のガラスは沈没した時に割れたのか、破片が端についている程度しか残っていない。
「貴族の船っぽいね?」
部屋の中を見まわしてシャルロが言った。
「確かに」
ベッドにもちゃんとマットレスが固定されている時点で、確実に貴族か豪商だろう。
俺たちの屋敷船も家のベッドと同じような物を使っているが、これは例外であり豪華客船でない普通の船だったらハンモックを使うか、もっと薄い毛布を重ねたような物を敷いて寝ることが多いらしい。
ちゃんとクロゼットまで建付けになっているのだから、大したものだ。
本人が船が沈みそうになった時にクロゼットに隠れたとか、沈む前に殺されてそこに押し込まれたんじゃない限り、クロゼットに死体が入っていることは無いとは思うが・・・ある意味、貴族の船となると普通に沈む理由があまりなさそうなので、物騒な可能性も考えてシャルロがそちらに注意を向ける前にさっさとクロゼットの方に向かう。
余り強烈な悪臭はしないから、水死体は無いと期待したいけどね。
水が引いたばかりで臭いがするかどうかは不明だが。
そっとクロゼットの扉を開けたら、中には普通にびしょ濡れな服と・・・金庫が入っているだけだった。
まだ服が腐っていないということは、マジで沈んでからあまり時間が経っていないな。
「何か面白いものがあったか?」
アレクが声を掛けてきた。
「沈没船の中身って発見した人間の物だと思うんだけど、これって沈んだばかりな船でもそうなのか?」
そっとしゃがみ込んで金庫に触れながら尋ねる。
まだ固定化と防水の術が有効なままだから、中に家宝とかが入っていたら海水で破損せずに万全な状態なままの可能性が高い。
権利書の場合は・・・流石に土地とかの権利まで船の発見者のモノにはならなそうだ。
土地なんて要らないし。
でも債券とかだったらもらって現金化しても良いか。
まあ、船に乗るのに家宝や権利書を持ち出すかどうかは不明だが。
「船の持ち主が引き上げを依頼した場合は、依頼主と依頼された側とで契約を結んで金を払う代わりに船で発見された物は全て持ち主の物とするのが通常だが・・・頼まれも契約もしていない時点で、我々の物だな。
まあ、持ち主なりその遺族なりが情に訴えて割安で寄越せと言ってくる可能性は高いが」
セビウス氏が教えてくれた。
そっか、アドリアーナ号を引き上げた時に随分と日当がよかったのって船や船の中身に対する所有権を主張させないためだったんだっけ。
「これはまだ中身が入っていそうだから、持って帰って調べようぜ。
あとは・・・大したものは無いか?」
部屋の中を見まわしていたシャルロに尋ねる。
「まあまあなペンとかカフスボタンとかあるけど、海水で錆び始めているし、態々探して持って帰る程でもないかも?
でも遺族がいるなら欲しがるかな?」
机の引き出しを調べていたシャルロがちょっと首を傾げながら言った。
遺族は多分この金庫の中身を欲しがるだろうが・・・家族の思い出にって言うんだったらカフスボタンなりペンなりを持って帰って渡す方が向こうの要求を潰しやすくなるかな?
まあ、本当に家宝だったらそれなりの値段で買い戻してくれりゃあ良いだけなんだが。
この船だって、新しいなら修理して売り出したら金になるかも?
面倒だから修理の手間も含めてそのまま売っちまいたいが。
それともシェフィート商会の船として使うかね?
ある意味、ノルダスと取引をするんだったら中を改造してこの船を使うのも有りかも。
一度沈んだ船なんて縁起が悪いって忌避されるかもだが。
一応貴族(多分)の船と言うことで隠し場所が無いか調べたら、ベッドの頭の部分の下に小さな隠し引き出しがあった。
「ナイフ?」
俺が引き出しを開いて出した物を見てシャルロが首を傾げる。
「・・・家紋が付いているな」
アレクが眉を顰めて言った。
家紋付きのナイフなんぞを枕元に隠し置いておくような貴族の持ち物って・・・面倒そうだとアレクも考え始めたっぽい。
「ケヴァール子爵家の当主が海で行方不明になって、跡継ぎ問題でもめていなかったか?
船の名前は・・・クリシファーナ号とか言ったはず」
何か意味深な感じに無表情になったセビウス氏が情報を提供してきた。
・・・外に船名が書いてあったよな。
確認するか。
ウィル的にはワクワク度が一気に低下?
セビウス氏はアップかもだけどw