1149 星暦558年 青の月 24日 海底探索(4)
結局、最初に探索した漁船の船倉には砂と魚の骨が散らばっているだけだった。
穴が無いように見えた船だったが、フジツボに隠れて見えていなかったが掌サイズの穴は幾つか開いており、そこから魚とかが入って船倉の中の獲物は美味しく食べられていたらしい。
ちなみに、人骨は無かった。
漁師は船が沈んだ際にさっさと逃げたらしい。
まあ、そこら辺の見分けは上手いだろうし、泳げない漁師なんて居ないだろうからさっさとヤバくなったら逃げたんだろうな。
最初の漁船の後もなんどか漁船や小型船を見つけたが、微妙に俺たちがたどったルートが悪かったのかあまり面白そうな大きな沈没船は無かったし海底の風景もそれ程代わり映えしなかったので、初日を除いてその後は夜も海上を進み続けた。
お蔭であと1日ぐらいでアファル王国に着きそうだ。
「なんかここ等辺は沈んだ漁船が多いね?」
水打で舞い上がった砂が落ち着いた海底を見回しながらシャルロが言った。
「ここ等辺ってチャールトンと隣国のニシンを獲ろうとしている領主の港町との間位の海域だろう?
お互いの妨害とか、多すぎるニシンを積んだまま帰ろうとする漁船とか、色々と無理をすることが増えるんじゃないか?」
アレクが指摘した。
ああ、そうか。
あと1日でアファル王国(というか王都)ってことは、チャールトンよりちょっと出たあたりか。
初日程速度を出していないし、ここ等辺がニシンの漁場なのかも?
現時点ではそれ程見かけてないから深さか場所が微妙に違うんだろうが。
「普通に毎日海に出て漁をするだけでもそれなりに危険はあるって言うのに、お互いの欲とか領主の思惑とかが絡むと更に危険度が上がるんだろうねぇ」
ちょっと哀し気にシャルロが言った。
「船倉に満載なニシンを積んで帰るって言うだけでもそれなりに沈没の危険度があがるんだろうから、それを更に悪意を持った人間が邪魔しようとしたりしたら、ヤバいだろうな。
まあ、流石に意図的に沈めるような攻撃をする人間は居ないと思いたいが」
漁師を皆殺しにするならまだしも、うっかり一人でも岸まで泳ぎ着いて本国の方に帰えられたら、戦争・・・とまで言わなくても紛争ぐらいは勃発しかねない。
魚を廻ってそこまではやらんだろう。
多分。
とは言え。
ここ等辺の漁船はニシンをたっぷり積み込む為かそこそこ大きいせいで、そこそこの数の沈没船を何か面白い船だと良いな〜と調べているのに、全て外れなのは中々面倒だ。
どうせだったら漁船は全部排除って清早に頼めたら楽なんだが、流石にそこら辺は精霊にも見極めは厳しいよなぁ。
「お??
あれって船首像がついてない??」
左の方を見ていたシャルロがそちらに見えていた塊を指さして言った。
「・・・かも??」
思わずワクワクしながら身を乗り出す。
流石に慣れてきたので海水の中に顔は突っ込んでいない。
シャルロの言葉に反応して蒼流が屋敷船を塊の方にさっさと動かし始めていたので、直ぐに俺たちはその沈没船の傍に来ていた。
サイズ的には大型漁船より一回り大きい程度だが、船首像が付いているし、折れたマストの痕と残っているマストを見るに、マストが2本あったもう少し立派な船っぽい。
「貴族か豪商かの個人的な船かな?
交易船にしてはちょっと小さいが」
アレクが首を傾げながら言う。
「いや、ノルダスへの交易船だったらこの程度の方が経済的なのかも知れない。
往路ならまだしも復路だったら綺麗な金細工とかが残っているかも?」
セビウス氏が指摘した。
そっかぁ。
とは言え。
こう言っちゃあ悪いが、新しい金細工じゃあ見つかってもそれ程面白くないけどね。
つい数日前に店で万全な売り出せる状態のを見たばかりなのだ。
やはり沈没船はそれなりに古くて歴史がありそうな物の方が面白いんだが。
ちょっと北回りの航路は沈没船探しに関しては外れっぽいな。
次回は南回りの方を提案しよう。
ザルガ共和国で沈没船を引き上げた場合って所有権とか税金とかがどうなるかをしっかり確認しておかないと、後でいちゃもん付けられそうだが。
「それじゃあ、中を見てみようか!」
シャルロが楽し気に声を上げながら浮遊で屋敷船から飛び降りて行った。
楽しげだねぇ。
でも、新しそうだからマジで逃げ遅れた人間が居たら白骨死体どころかえぐい姿の水死体が残っているかもよ?
まあ、そんなのがありそうだったら蒼流がシャルロの目につく前に消し去っているかも知れないけど。
沈んだ数で言えば交易船よりも漁船の方が多いでしょうねぇ