1148 星暦558年 青の月 21日 海底探索(3)
『南の方では美味しいって言って食べてるみたいだけど、嫌ならどけようか?』
俺が網に絡まったヤバいタコとやら言う生き物を困惑しながら見ていたら、清早が声を掛けて来てくれた。
「頼む!!」
ちょっとこれは食べられる気がしないし、食べたくない。
飢えているならまだしも。
かと言って、美味い食材と聞いたら殺しちゃったら食べざるを得ない気分になりそうだし。
・・・これってドリアーナに持って行ったら誰かが調理できるのかな?
でも、アファル王国でこんなの食べているとは思えないから、ドリアーナでも調理方法も知らないかも?
まあ、誰かが修行で南の方とかに出ていてこの化け物の調理方法を知っているかも知れないが。
いや、本当に美味しくて調理方法を知っているならドリアーナで出てきそうなものだ。
そう考えたら、やっぱアファル王国では未知の食材なんじゃないかね?
取り敢えず、網を海水の中に出しっぱなしにして魚を獲ろうとしてもこの化け物に絡みつかれるのだったら、諦めて人数分だけ魚を獲って生け簀に入れておこう。
パディン夫人って生きた魚を〆るのって出来るのかな?
まあ、殺すだけだったら頭を斬り落とせば良いだろう。
料理にいいタイミングになったら必要なら声を掛けてくれと言っておけば何とかなるよね?
そんなことを考えつつ化け物が退かされた網を動かしていたら、ふと砂が収まった横の方の塊に目がいった。
「お?!
あれって船っぽい?」
「あ、そうかも?
蒼流、船をそっちに回してくれる~?」
シャルロが甲板から身を乗り出し・・・顔が海水の中に入ってしまった。
俺と同じで水精霊の加護もちなんで水の中で呼吸に困らないし、海水が目に入っても痛くないんだが・・・髪の毛が海水でべたべたになりそう。
まあ、後で水を出して服ごと綺麗にすれば良いけど。
屋敷船がゆっくり方向を変えて塊の方へ近づく。
「船首像がないな。それが捥げる程船が破損しているか、漁船かって感じかな?」
ちょっと首を伸ばして塊の様子を見ていたアレクが言う。
サイズ的には大きな漁船かなぁ。
これがノルダスの遠距離漁業用の大型船ってやつなのかな?
確かに普通の漁船の3倍ぐらいありそうだ。
それでも沈むんだから、漁業って中々怖い職業だよなぁ。
交易船だって沈むが、少なくともあれは毎日のように海に出る訳じゃあないからな。
漁師はほぼ毎日海に出るんだろ?
嵐の時には出ないだろうが、ちょっと風が出ている程度で休みにしていたら食っていけない可能性が高いから、そこら辺を見極めて働かなきゃいけないんだろうが・・・一歩間違えたらこの沈んだ船みたいになるんだろうなぁ。
何とか岸まで泳いで生き残っても、働く手段である漁船が沈んじまったら後がヤバいし、中々漁師というのは大変な職業そうだ。
農家も旱魃や洪水で収穫が全滅する危険があるが、少なくとも本人の命は無くならないし農地そのものが消える危険も無い。そう考えると漁師の方が割に合わないのか?
まあ、その分税金とかが少ないかもだが。
「取り敢えず、中を覗いてみようか?」
ぐるっと沈没船の周りを一周して、止まったところでシャルロが提案した。
「だな。
漁船だとしても一度は中を見てみたいし」
と言うことで、蒼流に漁船(多分)を包み込むぐらいな大きさの泡を出してもらい、浮遊で近づいていく。
海底ってぬるっと滑りやすい事が多いからね。
どうせ船の中に入るのに浮遊の術を使うのだ。
だったら最初から宙を浮いて変に転ばないように動いた方が良い。
船の中央にはマストが折れたらしき大きな柱の残骸があった。
やっぱ沈没船のマストって折れてる事が多いよなぁ。
これってマストが折れるから沈没するのか、沈没する最中に折れるのか、どっちなんだろ?
まあ、ここ等辺で沈んだとなると岩にぶつかって船底に穴が開いて沈んだって訳じゃあないし、漁船だったら昔のアドリアーナ号みたいに重すぎて嵐の中で船のバランスを保てなくて沈むなんてことも無いだろうから、やっぱマストが折れたから沈んだんだろうな。
それとも、大漁過ぎて船が沈むなんてこともあるのかね?
・・・船倉の中に魚の骨が大量にあったらそのせいだと思っても良いのかも?
でも、漁船が沈んだらさっきの化け物や他の魚が船倉の中の魚を食べに集まりそうだから、その場合って骨も喰われて無くなるのかね?
そんなことを考えつつ、甲板に手を付き、小さな小屋っぽい部分の扉を開けたらざぱ~!!っと中から水が出てきた。
あらら。
どうやら蒼流の泡は船の中の水までは押し出してくれなかったらしい。
というか、水が漏れ出ないぐらい大穴が空いてないのかな?
だとしたら比較的新しい沈没船なのかも。
・・・骸骨になる前の水死体とかあったら、ちょっと嫌なんだけど。
やっぱ中を探すの、辞めようって言ったらダメかな。
漁船だったら船倉に入っているのは魚の残骸だけだと思いたいですね〜
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カクヨムさんで別に書いている短編を久しぶりに書きました。
今回で一応完結です。
良かったら読んでみて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678