1142 星暦558年 青の月 20日 遊ぼう!(29)
「へぇぇ、ジルサスの蚤市場程の規模は無いけど、入り口で覗き込んだ時に想像していたよりは大きいわね」
入場料を払って蚤市場の入り口の門をくぐり、中が見えるところで立ち止まってケレナがぐるりと周囲を見回した。
「大きいが・・・蚤市場に入場料なんて珍しいな」
アファル王国にある市場だって入場料を取るようなところはない。
まあ、骨董品屋が集まるような高級路線な王都の市場は実質招待制で、誰かからの紹介状が無いと値切り交渉も取り置き依頼も出来ず、ぼったくり価格を鵜呑みするだけの根性と資金力がある人間しか買い物出来ないが。
ジルダスの蚤市場は完全に出入り自由だ。
流石に万引きやスリが好き勝手に出入りする様では商売に差し支えるってことで敷地が壁で覆われているが、出入り口で金を徴収したりはない。
ノルダスの蚤市場は壁で囲まれている上に入り口で入場料を取られ、支払った証明の札を渡されてそれを購入時や出る時に見せたり提出する必要があるから無くすなと言われた。
まあ、金額は大したもんじゃあ無かったが。
でも、婆さんの大雑把具合からは想像も出来ないぐらいしっかり組織的に運営されている。
「盗品として届け出が出ている物が売りに出されていないか、職員が定期的に巡回して確認しているからその人件費って感じらしいよ。
まあ、表立って売り出さずにこっそり『お客様だけに特別見せたい逸品がある』って売られたら発見は難しいが・・・時折顔が知られていない人間を使って囮調査もしているって話だし、それなりにしっかり盗品対策をしているそうだ」
アレクが教えてくれた。
なる程。
盗品販売を容易にしないための仕組みか。
王都の盗賊ギルドは依頼ベースで盗みに入ることが多かったが、金になるからと自発的に盗んだ物はギルドに頼んでザルガ共和国で売るか、自己責任で適当な店に売りに行くかだった。店に売りつけようにも足元を見られることが多く、かといって盗賊ギルドの人間だと知られているのに市場で露店を開いたりしたら直ぐに警備兵に目を付けられて集られたので、ギルドを通さないと現金化が難しかったんだよな。
下町の人間から不当に金を巻き上げる警備兵がある意味市場での盗品販売を防ぐ効果があったなんて皮肉な結果だが、警備兵の行動をきっちり管理するようになったとしたら、盗品販売が容易になっているかも?
世の中、色々と難しいもんだな。
そんなことを考えながら蚤市場の中をふらつく。
今日は俺とアレク及びシャルロとケレナで蚤市場に来た。
先日話題に上った時に行ったのかと思っていたら、入り口から覗き込んだだけと言われて興味が無いのかと思っていたのだが、どうやら入場料のせいで思いとどまていただけらしい。
「お?
このマントは暖かそうだな」
アレクが吊るされている毛皮の塊に手を触れて、気に入ったのか裏返してじっくり調べ始めた。
どうせ出歩く時は馬車が多いんだから、毛皮のマントなんて必要かね?
ガチで寒い時は馬車の中にも小型の暖房用魔具を入れて温めているのに。
・・・とは言え、もしかしたらラフェーンとの遠乗り用かな?
馬に乗るのもそれなりに疲れた気がするから、運動している感じになって寒くても汗ばむかと思っていたんだが、それでも限度があるか。
コートよりマントの方がラフェーンのお尻に広げられてラフェーンも暖かくて喜ぶかな?
うっかりラフェーンが遠乗り中に立ち止まって催した時なんかは大惨事になりそうだが。
まあ、普通の馬と違ってしっかり意思疎通が出来て賢いラフェーンの使い魔なのだ。
うっかり大や小を毛皮のマントにぶちまけたりはしないだろう。
つうか、馬の尻ませ届くほど長いマントなんぞ羽織って乗馬はしないかな?
俺は・・・先日のジルダスで見つけた棚のような面白い魔術回路が無いかと心眼をがっつり使いながら周囲を見回す。
毛皮はあまり興味が無いからなぁ。
流石に何処から仕入れたのか分からない商品が多い場所で食い物を買う気もしないし。
面白そうな寄せ木細工の箱でもあったら良いかも?
ついでに隠し引き出しでもあったらシェイラが宿屋なり自分の家なりで貴重品を入れるのに使っても良いかもだし。
まあ、綺麗な寄せ木細工の箱だったら箱ごと盗まれる可能性があるから、貴重品は入れない方が良いな。
隠し引き出しに共鳴させた魔石を忍ばせておけば王都内ぐらいの距離に留まっていれば箱を見つけらえるだろうが、もっと遠距離へ持ち出されたらどうしようもないからなぁ。
取り返す手間も掛かるし。
まあ、シェイラだったら貴重品は銀行に預けていそうだ。
何か無難そうな小さなテーブルとかブローチ辺りでも良いかも?
いや、ずっと身に着けている装飾品は変な効果があったらヤバいか。
清早に確認して貰ったら大丈夫だろうか?
取り敢えず。
何か目につく物があったら購入を考えよう。
ふらふらと取り止めのない事を考えながらフリーマーケットを彷徨くウィル君




