1141 星暦558年 青の月 19日 遊ぼう!(28)
「そう言えば、この国って遺跡から発掘されたような物が売りに出される市場とか店とかってあるのか?」
自分打ったショートソードの握りの部分にスヴァンに見せて貰った素材を巻き付けながら尋ねる。
この素材、魔力を籠めると柔らかくなって変形するので魔剣には使えないが、普通の剣の握りを丁度いい感じに巻き付けて固定するのには向いている。
軽く火を通すと固定化して革や布よりもよっぽど強くなる上、肌から漏れる微細な魔力で多少柔らかくなるので握りやすくなるので形も使っていると最適化してくれるのだ。
長期間使っていると細くなってしまうので時折素材を上から追加して巻き付ける必要性があるという話だが、その際も付け替えではなく上から巻いて魔力を通してぐにぐにと力を加えて形を整えるだけでいいので、かなり使い勝手は良い。
残念ながら、魔剣のような大量に魔力を通す剣に使うとあっという間に駄目になってしまうので使えないが。
この素材その物の名前と特徴は分かったので、これをアファル王国で買えるかどうかが問題と言う気はする。
一応ある程度は素材を買って帰るつもりだが、一生分を備蓄するのは無理だ。もしもアファル王国で買えない様だったら時折ノルダスまで来て入手する必要がある。
「遺跡?
何かちょっとはあるかもだが・・・興味が無かったから良く知らんな」
円盤のような道具を足で回しながら昨日打った剣の刃に当てて火花を散らしつつ研ぎながらスヴァンが答えた。
「蚤市場はどうなんだろう?」
まあ、興味が無い人間にとっては遺跡からの発掘物もただのぼろい中古品も実質同じような物なので、そう言った物を売っている店がぼったくりの詐欺とスヴァンが思っている可能性があるから、蚤市場の信用度に関してもあまり正確ではないかもだが。
「蚤市場も骨董品屋も、本物とガラクタと偽物が混じっているのさ。
ガラクタが古ければ有難みがあるのかどうかは本人の価値観次第だが、役に立つ本当に古い物は流石に蚤市場にはほぼ無いさね。
ほら、下の方が緩んできてるよ!
そっちの方をしっかり握れないとすっぽ抜けるんだ、きりきり巻きな!」
後ろから婆さんが声を掛けてきた。
おっと。
きっちり強い目ぐらいに剣の握りの本体部分に素材を巻き付けてぎゅっと絞めるような感じにしろと言われていたんだった。
おざなりに巻いて、後で本当に戦場とかに出る羽目になった時に手からすっぽ抜けたら困る。
魔力を練って細く研ぎ澄まし、それを握りの素材に突き刺して網を張り付けるような感じに広げながらじっくり素材を握りに巻き付けていく。
魔力をがっつり通し過ぎると引っ張った際に素材が伸びすぎるので、通す魔力は細く薄く、しっかり力を掛けて引っ張っても微妙に伸びてがっつり握りの鉄部分に巻き付く感じにしなければ。
「役に立つ、古い、物ってどんなのがあるんだ?」
ギリギリと力を込めて巻きながら婆さんに聞き返す。
「伝説的な切れ味と強度がある剣とか、突拍子もない事が出来る魔具とか、色々とあるそうだが。結局、今の技術で再現できない物っていうのは国内なり国外のお偉いさんや金持ちが買い漁っちまうからね。
残っているのはたとえ本物だとしても誰にも使い方がわからないようなガラクタか、古く見せかけた偽物しかないと考えていいんじゃないかい」
婆さんが教えてくれた。
なる程。
使い方が分かるような遺跡からの出土品は高値で買われてしまうのか。
と言うか。
「遺跡ってノルダスにもあるのか?」
どんな文明があるのか知らないからナニソレ文明のウンチャラだって言われても、本物か偽物かの判断が付くか否か以前に、そのナニソレ文明って何があったの??という話になる。
シェイラだったら知っているのかな?
「ずっと昔はここ等辺ももう少し暖かかった時期もあったって話だからね。
がっつり鉄鉱石とかを掘り出して色々と造っていた時代があったらしいからそれが見つかったら技術的に今の物に劣らない、場合によっては勝るものもあるらしいよ?」
婆さんが言った。
「勝るものがあるって婆さんも見たことがあるのか?」
鉄器なんて土の中に埋もれていたら酸化して脆くなりそうなものだが。
まあ、埋もれているんじゃなくって地下の洞窟みたいなところに取り残されていたんだったら場所によっては大丈夫だったかもしれないが。
鉄の保存状態って冷気によって左右されるのかな?
イマイチ実験したことが無いが・・・ちょっとその遺跡からの出土物って言うのを見てみたいな。
買えるような値段じゃないって話だが・・・商業ギルドあたりが無駄に自慢げにどっかに見せびらかしてくれないかなぁ。