1139 星暦558年 青の月 18日 遊ぼう!(26)
幸い、炭を積み終わったぐらいで丁度シャルロ達も包丁選び(アレクは他にも鋏やら諸々の一般的な道具も色々と買い集めていた)が終わり、出て行った。
包丁が嬉しかったのか、シャルロはお気に入りの焼き菓子まで置いて行ったのだが・・・婆さんは甘い物が好きなんだろうか?
なんとは無く、偏屈老人って甘いものよりも塩辛い物とかを食べそうな印象があるが。
それはさておき。
「そんじゃあ、先ずは俺が剣を打つぞ?
手伝ってもらって婆さんが満足したらウィルが何か造るのを見て貰ってもいい」
スヴァンが言った。
「おう。
剣を打つのを手伝わせてもらうだけでも色々と学ぶことはある」
役立たず過ぎて邪魔だと思われたら追い払われそうだが。
スタルノだって、授業の一環として教えるとか、俺がその後に入り浸って色々と教えて貰うのはそれなりにしてくれたが、自分の剣を打つのを手伝わせてくれたのは大分と後だった。
そう考えると、スヴァンはそこら辺が甘いのか、それとも俺の打ったナイフを見て大丈夫だとそこら辺の判断を下したのか。
ちょっと判断基準を聞きたいところだが、まあ自己満足の世界だから言わないことを無理に引きずり出さなくても良いだろう。
「そんじゃあ、先ずはこれを熱してから叩くぞ。
フェレイ、ガンガンいってくれ!」
昨日精製した鉄の塊を手に、スヴァンが炉に居る大火蜥蜴に声を掛けて炭を放り込み始めた。
現実の炉だったら炭はもう少し小さく小分けにして投げ入れる方が火が通りやすいし、サラ君ですら急ぐ時はもう少し小さくしないと消化(?)に時間がかかるんだが、流石そこそこ大きく育ったフェレイ君。大きな炭の塊を腹の所に放り込まれたら、一気に炉が高熱を発し始めた。
これってうっかり火を入れておかずにやったら熱膨張で炉が割れたりしないか??
大火蜥蜴が居るから常に火を入れたまま熱くしてあるのかな?
今ぐらいの季節ならまだしも、真夏じゃあ暑くてやってられないと思うが・・・北国だったら真夏でも扉と窓を開けておけば大丈夫なのだろうか。
とは言え、鍛冶師が集まっているここ等辺の地区が暑くてしょうがない状態になりそうな気もするが。代わりに冬は暖房要らずな便利な場所になりそうだ。
とは言え、誰かが納期が差し迫っていて夜通し働いていたりしたら煩くて眠れないだろうから、ここ等辺に住んでいる鍛冶師はあまり多くない気もするが。
・・・そう考えると、こないだ作った防音用魔具を売りつけたら喜ばれるかも?
ハンマーでガンガン鉄を叩く音もある程度中和して静かに出来る筈。
楽器の音だって、打楽器なんかだったら似たような感じの音を出すのだってあったんだし。
音を遠くまで響かせるのが目的で造られた(多分?)トランペットなんかより、鍛冶師のハンマーの方が響かないぐらいだろう。
とは言え、今回は防音用魔具は持ってきてないからな。
長期的にシェフィート商会が交易するって言うならお土産代わりに試作品を一つ提供してはどうかって後でアレクに提案してみよう。
その前にそう言う物が便利だと感じられるかどうかもスヴァンに聞いておいた方が良いだろうが。
炉に突っ込まれ、真っ赤に熱せられた鉄塊を取り出したスヴァンが金床にそれを置き、ハンマーを手にこちらを見やった。
「行くぞ?
俺が2回叩いたら1回そっちも叩いてくれ」
「了解」
カンカン!ガン!
カンカン!ガン!
慣れて来るうちに、タイミングが早くなってくる。
カンカンガン!カンカンガン!カンカンガン!
微妙に角度や場所を変えながらスヴァンが叩いていくのをほぼ同じ場所を叩きながら、スヴァンが何を狙って叩く場所と角度を選んでいるのか見極めようとしていく。
初期段階だったらちょっとぐらい外しても大きな問題は無いが、ここでちゃんとスヴァンが求めていることが見て取れる様になれなければ、成長出来ない。
折角若いながらも腕利きな鍛冶師と一緒にハンマーを振れるのだ。
技術を出来る限り盗まねば。
スヴァンも純粋に剣を打つ腕前はスタルノ並みかそれ以上。
鍛治師版、英才教育って奴ですねw