1138 星暦558年 青の月 18日 遊ぼう!(25)
「うわぁぁぁ~。
色々あるね!!
何か刃に凄味がある感じ!!!」
台車に炭を積んでえっちらおっちらと港から運んできた俺の後についてきた一行は、大アチューラの店(そう呼んでいるのか知らんが)に入ってわいきゃい喜びながら店の商品を見回し始めた。
「騒がしくてすまん。
暫くしたら何か買って出ていくと思うから・・・先にこれを積んでおこうぜ」
スヴァンに謝りつつ、昨晩のうちに魔力を注ぎ込んでおいた炭を指す。
というか、積み終わった時点であいつらの買い物が終わってなかったらそれとなく追い出すつもりだ。
どうせノルダスなんて滅多に来ない北国に来たのだ。
まだまだ見るべき店なり工房なりが幾らでもあるだろう。
・・・そうだ、婆さんだったら色々とあちこちに顔が効きそうだから、良さげな金細工なり他の細工物の工房を教えて貰ったらいいんじゃないか?
まあ、どこも一見さんお断りで常連客にしか売らない偏屈ジジイやババアの店かも知れんが。
でもある意味、世代交代中なら跡継ぎ連中のそれなりに安くてまあまあ良い物が手に入って却って良いかも?
「おう。
なんか包丁に凄く興味があるっぽいが・・・料理人なのか?」
シャルロが熱心に包丁を見ているのを眺めながらスヴァンが聞いてきた。
「いや、食べるのが好きなんだ。
だからあれは料理人へのお土産。
俺が買った昨日の包丁もそうだし」
「ウィルが料理人だとは思わなかったが・・・まあ、考えてみたらあの若いのも料理人には見えないか」
肩を竦めながら工房の方へ入り、炭を台車から降ろして壁際に積み上げながらスヴァンが言った。
「若いのって言っても俺と同い年だぜ?
男2人は俺と一緒に魔具の開発をしている魔術師。
若い女は『あの若いの』の奥さんで、鷹や馬の調教を色々とやっているな。
もう一人の男はそこそこ大きな商会の三男だ。アファル王国と商売をしたいんだったら紹介するぜ?」
態々船でかなり離れた国と定期的に交易をしたい程の生産量があるかは微妙なところだが。
鍛冶師で国外と定期的に取引をしようなんて思ったら・・・それなりの数と腕前の弟子がいて、大量生産に近い感じでガンガン皆が働いていないと定期的にやって来る船の船倉を埋めるだけの商品を造り上げられないだろう。
・・・そう考えると、シェフィート商会がノルダスと定期的に交易するとなったら、帰りの船の船倉がかなりスカスカになりそうだな。
鉄鉱石ならまだしも、鋼製品を買って帰ろうにもそれ程大量に仕入れようと思ったら大変そうだ。
まあ、鍛冶師各自と取引するのではなく、商業ギルドか鍛冶師ギルドに取りまとめを頼めばそれなりの数を集められるだろうが。
それではかなり中抜きされるだろうし、商品の品質も保証できない可能性が高い。
金細工だったら更に量を集めるのが難しいだろうが、商会の人間だったら少なくとも剣の品質よりは金細工の良し悪しの方が目利きが出来るだろう。
シェフィート商会は一体何を買って何を売りつけるつもりで交易をしようと考えているんだろうか?
遊びに来た際に一回色々と買い漁って本国で売ってそれなりに儲けるって言うのはまだしも、定期交易となると高いとは言ってもまだ量と値段が『そこそこ』程度な香辛料とかの方がマシな気がする。
「う~ん、やっぱ武器も包丁も、使う人間が見える方がやる気が出るからね。
包丁に関してはしょうがないにしても、武器は人を殺す道具になるか、人を守る道具になるかを見極めて造れって婆さんには言われてきたんだ」
小さく苦笑しながらスヴァンが首を横に振った。
あ~。
確かに、武器って言うのは殺すために振るうのか、守るために振るうのかって考え方はあるよなぁ。
そう考えると、軍部とかに売る場合は国のトップが変わるとゴロっと方向転換しかねないな。
とは言え、売る相手をえり好みしていたら商売にならない気もしないでもないぞ?
「もしかして、のれんわけした相手とはそこら辺がイマイチ婆さんと意見が合わなかったのか?」
まあ、本格的に喧嘩したんだったらのれん分けすらしないだろうし、商売なんだから理想論ばかり追っかけてもしょうがないって言うのは婆さんもスヴァンも分かってはいるだろうが。
「まあねぇ。
腕が良くて人格もそれなりだと、どんどん弟子が増えちゃってその人たちを食べさせなきゃいけないとなると売る相手をえり好みばかりしていられなくなるんだよ。
その点、婆さんは偏屈だから。当たりの柔らかい叔父さんがのれん分けした時に殆ど全部あっちに人を押し付けて、絶対にしがみついても離れないって主張した俺がこっちの店を譲られた訳」
笑いながらスヴァンが言った。
・・・ある意味、あの凄腕な婆さんを師匠として独り占め出来たんだから、スヴァンの作戦勝ち?
鍛治師も実はそれなりに食わせ者だった?!




