1136 星暦558年 青の月 18日 遊ぼう!(23)
鍛冶場は表の店よりも広い位だった。
炉が2つあり、壁際に棚があって見た感じ、何種類かの炭が積まれている。
ふむ。
また後日遊びに来る時間があるようだったらお土産用に一応船に積んでおいた炭を持ってくるのも良いかも知れないな。
アファル王国の炭がノルダスの炭より良いかは不明だが、違いって言うのはそれなりに火系の幻獣の味覚(?)を楽しませる可能性があるからそっち経由の賄賂代わりだ。
こちらの炉に居るのは・・・元は火蜥蜴だったのかも知れないが、今は中位ランクになったせいでずっと大きくなった幻獣だった。
殆ど炉と一体化する様な感じに半精霊っぽく実体をなくしてのんびりと寝ており、スヴァンが炉を開けて中に炭を放り込むと、大火蜥蜴(?)の腹の中に炭を突っ込んでいるように視える。
火蜥蜴ってランクが上がると大きく、常時精霊っぽくなるんかぁ。
まあ、ウチのサラ君も実体化してない時は多いよな。
サラ君は炭を齧るのが好きっぽくて鍛治をする時は実体化しているが。
精霊も確かに清早や蒼流も下位精霊よりも大きいが、あれは本人(本精霊)の好みで見せるサイズを適当に調整している感じがするから、精霊寄りな存在にとってサイズは比較的自由なのかも。
最初に会った頃の清早は水瓶に入って悪戯するサイズだったし、精霊が数年で極端に成長することは無いので実質それ程変わっていない筈なのに今のサイズは子供ぐらいに大きくなっているから、俺が違和感を感じず、また変に子ども扱いしない程度な大きさを選んでいるんじゃないかな?
清早に聞いたことは無いけど。
幻獣の成長って何が齎すのか、ちょっと興味があるところだが・・・今度清早に聞いてみようかな?
それこそ炉で火を強くするために魔力を注ぐと育つのだったらもっとウチにいる火蜥蜴に魔力を上げて大きく育つように頑張っても良いかも知れない。
俺が魔具開発からリタイヤして、鍛冶にもっと本格的に取り掛かるようになった時に炉と一体化するぐらいサラ君が大きくなっていたら楽しそう?
「取り敢えず、これを着てくれ。
まずはインゴット造りから始めるぜ」
作業着を差し出しながらスヴァンが言った。
どうやら、部屋の右端に積んであるインゴットではなく、左端に積んである鉄鉱石を使うらしい。
異国から来た鍛冶師未満に色々見せてやろうと思ったのか、それとも折角魔術師が来たから鉄鉱石の精製に俺の魔力を使おうと思ったのか知らんが・・・まあ、どちらにせよ興味はあるからいいや。
「あいよ」
上着を脱いで店との間の扉を開けて店側に掛け、渡された作業着を着る。
これで上着が盗まれたら・・・まあ、しょうがない。
つうか、俺の上着よりも店の剣やナイフの方がずっと価値があるだろうに、店を放っておいていいのかよ、婆さん?!
売ってくれなかったあの剣が無防備に店番のいない店に置いてあったら、昔の俺だったら躊躇なく盗んでいるぞ??
一応扉にチャイムが付いていたが、ここでガンガン作業していたら聞こえないだろうに。
それとも婆さんには何かそう言うのが分かる凄い技でもあるんかね?
スヴァンに指示されたとおりに鉄鉱石を取り出し、他の素材と合わせて坩堝の中に放り込んで炉に突っ込む。
ぽいぽいスヴァンが腹に投げこむ様に見える炭をバリボリと豪快に噛み砕きながら大火蜥蜴が一気に坩堝を熱した。
これって姿を見せていない大火蜥蜴を視えない人間には投げ込んだ炭が一気に粉々になって発火しているように見えるんだろうなぁ。
特に驚いている様子が無いし投げ込むタイミングも丁度口の動きに合っているからスヴァンには大火蜥蜴が視えているんだろうけど。
「魔力はあげなくていいのか?」
そのために俺を呼んだのかと思ったが。
「そっちの炭にはそれなりに沁み込ませているから、良い。
何だったら後で入荷する炭に注いでおいてくれ。
ピルク!もう良い感じか?」
スヴァンが俺に答えた後に炉の方に声を掛ける。
どうやらこの大火蜥蜴がピルクというらしい。
『もう一口!』
ピルクが強請るように応じる。
この口ぶりだと必要と言うよりも欲しいって感じだな。
「しょうがないなぁ。
もう一個で終わりだぞ?
まだまだ俺の腕じゃあ店の経営が厳しいんだから」
とスヴァンが言いながら炭をもう一つ投げ込む。
大火蜥蜴に店の経営の話なんてして、通じるんかね?
通貨価値とか経営を理解する幻獣って珍しい気がするが・・・代々この鍛冶師の家系と共にいて、経営の悲哀や喜びを見てきて馴染んだのかも?
幻獣が理解できるほど金勘定が厳しい鍛冶業なんてちょっと嫌だが。
幻獣の体は融通が効きますw