1129 星暦558年 青の月 18日 遊ぼう!(16)
「お~~!
無事についたか?!」
朝起きて、朝食前に着替えすらせず甲板に出て外を見回したら、斜め前方に大きな河口があった。
それなりに立派な船が入って行くのも見えるし、これがノルダス王都がある場所の河口っぽい?
河って深さが足りなくて大きな船は通行できないことが多いと聞いたが、ここは水深が深いのか、意外と普通に交易船が河の方へ航路を切っている。
良いんかね??
「着きました!!」
ズロクナがほっとしたような顔で海図から顔を上げて応じた。
まあ、別に失敗してもズロクナを責めるつもりは無かったんだけど、航海士も兼ねた船長もどきとしては責任を感じてドキドキしていたっぽい。
「ちなみに、あの河って水深が深いの?
この船でも入って行っても不思議じゃない?」
同じく寝間着のまま上がってきたシャルロがズロクナに尋ねた。
おっと、寝間着が潮風でべたべたになる前にさっさと部屋に戻って着替えるべきだな。
でも、水深に関しては俺もちょっと気になったのでそのままズロクナの答えを待つ。
実は蒼流や清早が居るから水さえあれば水深なぞ関係なくこの屋敷船は倒れることも突っ掛かる事もなく浅くても河に入れるんだが、通常だったら座礁するような船が水の上を動いているとその不自然さで普段以上に目を引くし、親切心で注意してくる連中も多いから面倒なんだよな。
俺たちが座礁するのを待って救助報酬目当てに後ろをつけて来る連中もいるかもだし。
「ノルダスの大きな河は、殆どが過去に水ではなく氷の流れが下ってきた所なので普通の河よりもずっと水深が深いという話は俺も聞いたことがあるのですが・・・どうやら行き来している船を見る限り、噂は本当らしいですね」
ズロクナが応じた。
『屋敷船を完全に水面下に潜らせて動かすには足りぬが、ちょっと上流に行った所にある街まで程度なら普通に上部を海面に出して進むには問題ない深さがあるぞ』
蒼流が現れてシャルロに教えた。
風が強い時とか海が荒れている時なんかは水面下を進む方が早いし揺れないんで、時々蒼流が昔沈没船を動かした時みたいに屋敷船その物を水面下に沈めて動かすんだが、流石にそれをするだけの深さは無いのか。
まあ、河だったらそこまで荒れることも無いだろうし・・・万が一何かがあって荒れるとしても、蒼流が静めるから問題にはならないだろう。
ここで小型船に乗り換えて王都まで行かなきゃかと思っていたが、どうやらこのまま王都まで乗り入れられそうだ。
方向転換できるだけ深い部分の川幅があるのかちょっと興味はあるが、別にこの屋敷船は前向きも後ろ向きも俺たちの気分次第だからな。
係留場所さえ確保できるなら、問題ない。
まあ、係留場所が無いんだったら一旦俺たちが降りたら蒼流か清早に海まで船を戻してもらって、後でまた夜に寝る前に迎えに来て貰っても良いし。
「そんじゃあ王都に行こう!」
シャルロが嬉し気に提案する。
「ああ、そう言えば一応可能かもと思って係留場所を予約してあるから、ここに留めてくれ。
まさか本当に河がそこまで深いとは半信半疑だったんだが」
ちゃんと着替えたアレクが何か書いた紙をズロクナに渡して言った。
おお~、流石アレク。
ちゃんと手配してあったんだ?
まあ、アレクは屋敷船が水と川幅さえあれば、どれ程浅い河でも蒼流と清早が船を持ち込めると知っていたからな。
あまり浅いと岸への乗り降りの際の勾配が急になったかも知れないが。
「さっさと着替えて、朝食を食べて街に出てみよう。
パディン夫人がもう朝食の準備が終わりそうだと言っていたぞ」
アレクが俺とシャルロに言う。
パディン夫人に頼まれて来たのかな?
どちらにせよ。
しっかり食べて、がっつり街を歩き回ろう。
アチューなんとかを探すために、今日はあちこち歩き回る羽目になりそうだし。
俺の趣味なだけだから少なくとも今日は皆と別行動の方が良いかな?
金細工も鍛冶師がやるのかも知れないが、少なくともスタルノが言っていた凄い剣を鍛える鍛冶師は金細工に手を出していない可能性が高そうだ。
まあ、この国だったら金細工も剣も鍛治師が一手に引き受けてるのかもだが・・・スタルノの所にあった凄みはあるが武骨だったあの剣を作る人間が金細工も好んでやるとはちょっと想像できない。
金に困ってやるかもだが。
一応鋼の剣とかもこの国の名産物の一つなんだから、あれだけの剣を打てればそれ一筋で食っていける・・・と思うんだが。
ちょっとフィヨルドっぽい深い川です