1128 星暦558年 青の月 17日 遊ぼう!(15)
「何か気に入ったのがあったか?」
小物を色々と置いてある店に入り、シャルロとケレナが楽しげに店の中の絹の財布やバッグを見ている間に、適当に何かないかと見て回っていた俺にアレクが声を掛けてきた。
「絹よりも、この寄木細工の箱の方が気に入ったかな」
冬の間に出歩けない地域の住民と言うのは、何かと細かい時間が掛かる細工物を作ってそれを収入源にするのだろう。
手の込んだ絹の織物も多かったが、幾つか彫り物や寄木細工もあり、俺としてはそっちの方が気に入った。
布で出来た物って使っていたら何かぼろくなりそうで微妙なんだよなぁ。
木の方が、丁寧にさえ使えば古くなっても艶が出て長持ちする気がする。
あと、生地や織物で凝っているのって何処かに引っ掛けそうだし、埃が溜まって徐々に汚れて行きそうなのも嫌だ。
シェイラがどう考えるか知らないが・・・ドレスだったら自分で仕立てる方が確実に好みに合うだろうし、普段着は流石に絹服を着て発掘作業をするとは思えないし、鞄は色々と物が入る大きなのを好んで持ち歩いているから絹製は向かないだろう。
「ふむ。
中々細かくて良いね。
シルファータと言ったら絹織物の方が有名なんだが、露骨にお土産用じゃないのもある意味得点が高いかも?」
軽く笑いながらアレクが言った。
「そう言うアレクはどうなんだよ?
誰かお土産を買って行きたい相手はいないのか?
お袋さんが色々せっついてくるんだろ?」
買い物する時は自分用ではなくシェイラのを見ているのがバレている。
ちょっと微妙なので、反撃した。
俺自身は態々他所で手の込んだ高い物を買わなくても、適当に頑丈なのを近所で買えばいいんだよなぁ。
拘りが無いから、ここ等辺の手の込んだ芸術性の高い物を自分の普段使いに欲しいとは特に思わない。
「私はここで絹や木細工の物を買うより、ノルダスで金属製の物を買いたいかな。
まあ、母への土産に何か買って良いかも知れないが・・・それに関してはちょっとセビウスと相談かな」
小さく笑いながらアレクが言った。
女性用プレゼントは母親用だけかい。
相変わらずだね〜。
そしてシェフィート兄弟はやはり母親には頭が上がらないらしい。
と言うか、母親だけじゃなくて兄貴とか父親とか義理の姉とかにもお土産を買うべきじゃないか?
まあ、それを言っていて従姉妹とか部下とかもってなったらきりが無いが。
そう考えると、親戚が居ない俺は楽でいいな。
シャルロは親戚が多すぎるから、お互い以外に関してはお土産は『これは誰それだ!!!』という直感を感じる物があった時以外はお菓子やつまみみたいな食べる物を買っているようだ。
つまり、帰った時点で王都に居ない相手には何も買わない。
ある意味、簡単かつ後で文句が来ない線引きかも知れないな。
「そう言えばここ等辺の食材としてのお勧めは何なんだ?」
ふと気になって尋ねる。
何軒かの店に入ってお勧めな食事処を聞き、シャルロが適当にくじ引きっぽい感じで候補に挙がった名前の中から一軒選んで夕食の予約を入れたのだが、チャールトンのようにニシンが売り!と言うようなシルファータに来たらこれを食べるべき!と言う感じの料理はあるのだろうか?
「絹が取れる方で樹液が甘い木も生えているらしくって、そのシロップを使ったお菓子は有名だし、他の店にそのシロップの瓶詰も売っていたが・・・それ以外の食べ物は特に何それが有名って言うのは無いかな?
その樹液を使ったリキュールはちょっと有名だが・・・あれは万人受けすると言うよりは好きな人は好きってタイプだと聞く」
アレクが教えてくれた。
「酒は要らんな。
それよりはシロップの瓶詰を買おうかな。
余分に買って帰ってゼナにでもドリアーナのスイーツに使ってみないか唆してみないか?
試作品を美味しく提供して貰えるかも」
シロップだったら長持ちするだろうから、飛び切り美味いのが出来て、それを定番メニューの一部にするって言うのだったら数か月に一度屋敷船で来て買い漁って行ってもいいし。
いや、考えてみたらそう言うシロップとか蜂蜜って採れる時期が決まっているって聞いた気がするから、数か月ごとではなく年に一度なのか?
どちらにせよ。
お土産を持って行けば賄い飯を食べる口実になるし、スイーツに使う気になったら試作品を食べに来いって誘ってもらえるかもだな。
うん。
ちょっと多めにシロップの瓶詰を買って行こう。
ドリアーナへ下心付きお土産購入、決定〜!