1127 星暦558年 青の月 17日 遊ぼう!(14)
「ここの港は内陸部に温泉が自然に地表に出ていて周囲より暖かい谷間があって、そこで絹の生産をしているらしいから絹織物が名産なんだ。
生産量は少ないが、周囲の人間が冬の海が荒れる間に色々と工夫を凝らして織るから面白い模様が多いそうだよ」
昼過ぎに到着したシルファータとかいう港に入港しながらアレクが教えてくれた。
セビウス氏とズロクナは到着に掛かった時間の短さにちょっと目を剥いていたいたけど。
「シルファータまで2日ちょっと???
あり得んだろう・・・」
セビウス氏がズロクナの手元にある海図を見ながら唖然とした様子で呟いている。
「東大陸まで4日程度で着くんだから、距離から考えたらここまで2日は不思議ではないだろう?」
ちょっと首を傾げながらアレクが聞き返す。
「いや、だが・・・。
パストン島までの航海は普通の船で6日か7日程度だからまあ倍近くの速度だと思えばなんとかなるが、シルファータまでだと通常は直行便で最速でも10日近くかかるんだぞ??」
セビウス氏が抗議する。
「東大陸まで行くのは沿岸沿いじゃないから座礁の心配がないってことで普通の船もそのまま夜通し船を動かしているのに対し、シルファータは沿岸沿いだから一般的な船長は夜に停泊しているから、その分5割り増しぐらい航海時間に最初から違いが出ている。
更に風や海流に関係なく飛ばすこの屋敷船は速度そのモノも倍以上違うことを考えたら、10日の行程が2日になっても不思議はないだろう?」
アレクが指摘する。
そうなんだよなぁ。
俺たちの屋敷船は蒼流や清早がいるから当然座礁も他の船との衝突もする危険が無いので夜通しぶっ飛ばして貰っているけど、普通の船はそこら辺の危険性を考慮して夜は停泊させているんだよね。
急ぐ場合は沖合に出て出来る限り安全確保してから航海する場合もあるらしいが、やはり危険性が高いせいで余程の緊急事態じゃない限り船長も航海士も船乗りたちも嫌がるらしい。
夜中に船が沈没したら、陸がどこか分からないどころか、海面がどこかの判断も難しいのだ。
海に落ちた際の生存率がぐっと下がるから嫌がるのも当然だろう。
「・・・交易で儲ける気は無いか?
2日で王都からシルファータに辿り着けるなら、ぼろ儲けも夢じゃないぞ?
考えてみたら、ノルダスだって3日ちょっとで行けるんだし」
セビウス氏が提案してきた。
横でゾロクナがコクコクと頷いている。
「偶に遊びに行く際にオマケで買い付けする人を乗せてあげるぐらいは構わないけど、自分でお金儲けの為に船で行ったり来たりと同じところを回る気は無いな~。
単にお金が目当てなんだったら、それこそ沈没船を見つけて引き上げて回る方がお金になるしもうちょっと面白いと思うし」
シャルロが肩を竦めつつ拒否した。
だよな~。
金儲けは重要だが、せっかく退屈なことをやらなくてもそれなりに儲けられるようになったんだ。
人生は楽しまなくちゃ。
と言うか、絹織物とか金細工程度だったら魔術師を雇い入れて転移門で日参させたらどうだ?
魔術師として平均的な魔力があればちょっとした荷物を持って毎日1往復ぐらいは問題なく出来るだろう。
・・・とは言え、借金がヤバくなっていたイリスターナたちがそれを遣ろうとしてなかったってことは、何かやっちゃいけない決まりでもあるのかな?
それとも目利きが出来なきゃダメなのか。
「あ~。
確かにそうか。
それに精霊に助けて貰って荒稼ぎしすぎると、文句を言う奴らがどこかから出てきそうではあるか」
セビウス氏がため息をつきながら前のめりになっていた姿勢を戻す。
まあ、シャルロが蒼流に頼んで本人が本当にやりたくてやっている事は、他人にとってどれ程都合が悪かろうと邪魔しない方が良いと思うけどね~。
貴族だろうが商家だろうが、水精霊にそっぽ向かれて大丈夫な職業は無い。
領地で雨が降らなくなったり、商家の船が港から1メタも動かなくなったり。精霊から報復を受けたらやっていけなくなるだろう。
シャルロ本人は文句を言われたら『他の人が不快な思いをするならやめるか~』程度であっさり止める可能性が高い気はするが、蒼流が『シャルロのやりたいことを止めさせるなんて許さん!!!』って怒ると思う。
まあ、それはさておき。
絹織物だったら手ごろなサイズの何か良いのがあったらシェイラのお土産に良いかも?
ウィルだっ清早が報復してくれるよ?
幸い、文句言いつつも必要性を認めてあっさりやっているから国とかからの依頼に関しては報復してないけどw