1122 星暦558年 青の月 17日 遊ぼう!(9)
適当に食料や向こうで売る物を積み込み終わったとアレクに言われ、着替え等の個人的な物を持って屋敷船に乗ったら見覚えのある顔が出迎えてくれた。
「やあ、お久しぶり。
偶には国外に出るのも良いかもと言うことで同行させてもらうことになったんだ、よろしく」
にっこりと挨拶された。
おいおい。
あんた帰国日不明で国元を出ちゃって良いの??
・・・沈没船探しに釣られたな?
ノルダスに転移門があっても使わない気がするぞ。
「兄がどうしても来たいと主張してね。
同じく興味を示していたラティファが妊娠しているからって事で競争から脱落したんだ」
肩を竦めながらアレクが言った。
出産がまだまだ先だとしても、妊婦を国外に連れ出すのは嫌だぞ!
何かがあった時に怖すぎる!!
しっかし。
セビウス氏とラティファで来る権利を争っていたとなったら、実はシェフィート商会は思ったよりも真剣にノルダスとの交易を検討しているのかね?
それとも単に安全かつ素早く遠方へ移動できる機会を逃したくなかっただけなのか。
まあ、俺はどうでも良いけど。
「お久しぶり。
何か土産に良いような面白い手ごろな物を見かけたら、是非教えてくれ」
セビウス氏って商売よりも情報管理とか、ライバル商会や手を出してきそうな貴族とかに対する警戒や情報収集に専念している感じだけど・・・ちゃんと商売的に何が売れるとかどれが価値がありそうって分かるんだよな??
まあ、アレクが学生時代には長兄氏と跡取り争いを一応やっていたみたいだから、ちゃんと基本は押さえていると思うが。
それにシェフィート商会だったら商売の事は子供のころから色々な商売に関する情報を吸収していて、本能的な感じに分かっている可能性も高いだろうけど。
「ああ。
やはり偶には現場に出て肌で他国の状況を知っておくのも重要だからね。
自力でノルダスに行こうなんて考えていたら行って帰って来るのに半年ぐらい掛かりかねないから、今回同行させてもらえるのは感謝している」
セビウス氏が頷きながら言った。
現場を見たいって言うよりは沈没船探しを直に見たいっていうのの方が本音な気がするが・・・色々と古い船の事とか遠方の他国の事とか知っていそうだから、同行して損は無いだろう。
今だったらまだアレクの父親も母親も元気だから、暫くセビウス氏が居なくても商会が痛手を受けたりしないだろうし。
「そんじゃあ行こう!」
うきうきとケレナと共に寝室スペースから出てきたシャルロが、今回も船長役にシェフィート商会から借り出したズロクナへ声を掛けた。
大元の雇い主であるシェフィート商会の坊ちゃまが2人も乗っているので誰の命令を聞くか迷うかなと思ったのだが、船の男なだけあって蒼流に溺愛されるシャルロは別格らしく、あっさりズロクナが岸側の男たちに合図を送って係留綱が外され船が動き始めた。
まあ、ズロクナが綱を緩めさせなくても蒼流はあっさり屋敷船を動かしちゃうんだから、考えてみたら誰の意見を聞くかなんて迷う余地も無いよな。
岸側の設備だろうが周囲の船だろうが、邪魔な物は排除しながらだって蒼流はシャルロの望み通りに屋敷船を動かすのだ。
シャルロが周囲への被害を望まないから物理的な破壊は最終手段になるが、動きが遅い相手にバシャッと水がどこからともなく振りかかってびしょ濡れになることだって珍しくはない。
まあ海水ではなく真水なので、暑い時期だと相手に喜ばれているような気もしないでもないが。
「航行の予定はどんな感じなんだ?」
セビウスがシャルロとアレクに尋ねる。
「今日はね~、チャールトンに午後に着いてちょっと街を見て回る予定。
ニシンが有名らしいからそれを食べてから船に戻って、寝ている間にぐっと進んで明日は・・・どこだっけ?」
シャルロがアレクに尋ねる。
「多分夜の間にアファル王国の海域から出ると思うが、どこまで進めるかちょっと不明なんで昼食時あたりに適当な港町に入って場所を確認する予定だ。
ノルダスには多分3日目に着くのではないかと予想している」
肩を竦めながらアレクが言った。
というか、3日目で辿り着きたいとシャルロが頼めば確実に蒼流がそこに辿り着く様に船を動かしてくれるだろうが、無理はせずに適当に行こうと言ってあるので実際に着くかどうかは明日の昼食時にどこら辺に居るかを確認してから判断ってところだろう。
海岸線に良さげな港町があったら寄り道しても良いし。
まあ、なるようになるだろう。
予定は未定って感じだ。
ぶっ飛ばせば1週間ぐらいかかる距離でも一晩で着く船w
航海に掛かる時間の判断には役に立ちませんね。