1120 星暦558年 青の月 15日 遊ぼう!(7)
「シェフィート商会の人間を一人同行させても良いか?
あっちに交易船か隊商を送る価値があるか判断する為に色々と見て回りたいんだそうだ。
代りに飛び切り美味しい、つまみになるような燻製肉をお土産用に無料で提供すると兄が言っている」
北の方の裏組織とかでヤバいのがあったりするかを長に確認してきた結果(女性を襲わなければ大丈夫との話だった)を朝食後のお茶を飲みながら報告した後、補給とか持って行く金貨代わりの商品の件を実家の方で聞くと言っていたアレクがちょっと意外な提案をしてきた。
「別に部屋は余っているし、良いんじゃない?
でも、燻製肉が人気なの?
小麦とかじゃなくって?」
シャルロが首を少し傾げながら尋ねた。
「小麦も欲しがられるが、香りの高くて美味い燻製肉はちょっとあいさつ代わりに渡す土産として人気らしい」
肩を竦めながらアレクが教えてくれた。
なるほど。
香りの高い燻製肉って木の種類とかを色々と工夫するってレディ・トレンティスの所の爺さんが言っていたっけ。
手伝った後に皆で騒ぎながら飲み食いしている時に、めっちゃ美味い燻製肉があったから俺達の庭にある燻製小屋モドキで同じようなのを作れないかと聞いた時に言われた。
木の種類やそれの乾燥具合、どのくらいに木材を砕くかとか燻製する時間とか温度とか、色々と細かく調整が必要な熟練の技なんだと自慢されたんだよなぁ。
あの爺さんの燻製肉程美味いのをシェフィート商会が入手しているのか知らんが、まあ考えてみたら手広く商売している所なんだから他の拘ってる爺さんとかから燻製肉を入手している可能性は高いか。
確かに、賄賂とは言わないけど印象を良くする挨拶時の手土産に美味いつまみって言うのは有力そうだ。
「勝手に色々と頑張ってくれるなら何人か乗せていくのは構わないと俺も思うが、金細工以外にも何かあっちで購入したい物があるのか?」
土産に良い物があるならシェイラに買っていくのもありかも?
普通に良く知られている金細工よりも想定外な何かの方が喜ばそうな気がする。
「さあ?
どうも、折角船で行くんだからってことで色々と持って行って何が喜ばれるかを調査したいって希望が大きいみたいだな。
あっちで仕入れる方は金細工以外にも何か良い物があったらめっけものと言う程度で」
肩を竦めながらアレクが言った。
なる程。
向こうで仕入れる物に関しては金細工が有名だからそれ程調べる必要も無いのか。
だが、こっちから向こうに売りつける為に持って行く商品で、想定外に喜ばれて高く売れるものがあったら交易ルートの利益率が上がるんだろうな。
小麦を持って行くんじゃあ重いしどこの地域から持って行ってもあまり違いは無いしで、こっちから売りつける物の利幅は限られそうだ。
「船に同行して色々とついでに試す商品を積んでいくのも良いけどさ、帰りはどうするの?
沈没船探しとか、極北経由で東大陸に行くかもとか、まだ帰りをどうするかは決めてないじゃん?
新規交易ルートの下調べをさせるような切れ者を、帰ってくるのがいつになるか分からないお遊び旅行に連れ出しちゃって良いのかな?」
シャルロが尋ねる。
そう言えば、そうだった。
いつ帰ってくるか決めてないし、何が見つかるかとか気分次第で帰りのルートや方向も適当に決める遊びのつもりだったからな。
それに付き合わせちゃって良いんかね?
「う~ん・・・」
アレクが腕を組んで考え込んだ。
「あちらの首都に転移門があってアファル王国まで転移できるならそれで送り返すのが一番良いかな?
別の船なり陸路なりで帰るとなったら、我々が色々寄り道して遊びながら帰ってくるとしても屋敷船の方が早い可能性が高いし確実に安全だから、休暇だと思って付き合わせれば良いだろう」
あ~。
確かに、北の辺鄙な国から返って来る陸路なんてヤバそうだよな。
夏だから吹雪で凍死なんてことは無いだろうが、山賊とか危険な野獣とかに襲われて死んじまう可能性はあるだろうし、船だって沈む可能性はゼロじゃない。
と言うか、ノルダスとアファル王国を行き来する交易船とかってあるんかね?
途中の国で何度も乗り換えなきゃならないとなったらめっちゃ時間と金がかかりそうだ。
・・・シェフィート商会だって交易船を沢山持っている訳じゃあないし、交易するのに良さそうな物があったら海運業の強い商会と組むつもりなのかな?
まあ、俺の知ったこっちゃないが。
「どうせ来るなら、沈没船に入っているような骨董品っぽいのに詳しい人間だったら便利かも?」
沈没船探しをするかは確実じゃあないが。
沈没船探しをするかもって聞いたらセビウス氏が来たがりそうw




