1118 星暦558年 青の月 14日 遊ぼう!(5)
「ノルダスって海沿いの国かな?
なんかアチューなんとかって言う名の腕のいい鍛冶師が居るらしいから、海沿いの街に居そうだったら会ってみたいかも」
学院長とスタルノに会った翌日、いつもの朝のお茶を飲みながらアレクとシャルロに尋ねた。
考えてみたら、学院長とスタルノ両方がそれなりに有名だと言う認識で話していたのだから、この北の国の鋼はそれなりに良い物なんじゃないかな?
「ふうん?
・・・ノルダスと言えば農業が殆ど出来ない北の僻地で、金属系の加工品を輸出して食糧を買っていると言う話の国だな。
貴金属の繊細な細工物なんかが高額で取引されるんだが、鍛冶師ってことは武器か?
まあ、海沿いではあるが、有名どころな職人はちょっと河をさかのぼったところにある王都で働いているのが多いらしいぞ」
アレクがちょっと考えてから教えてくれた。
なる程。
鉄だけじゃなくって金銀銅とかも溶かして加工する訳か。
重い上に嵩張る武器なんぞを大量生産して輸出するよりは一点物の装飾品とかを作って売る方が輸送の費用も安くなる上に売値は高いし、腕がいいなら他の国の職人と競争にならなくて良いんだろう。
武器の大量輸出なんて物騒だしな。
高級品だったら途中で襲われる可能性が高くなるが、それは作った職人じゃなくって買い取った商人の負うリスクだから、造る方としては気楽だろうし。
「そっか、ノルダスの金細工を直接原産地で見れるかもしれないんだ!!!
河を上がるのは小型船で行けばいいでしょ?是非行こう!!」
シャルロが興奮したように声を上げた。
おや。
金細工はシャルロが興奮するぐらい有名なんだ?
「珍しいな、シャルロがお菓子じゃなくって金属なんぞに興味を示すなんて」
まあ普通の菓子は流石に他国から輸入するのは無理があるから、どちらにせよ『どこそこの焼き菓子』が有名って言うのは無理だろうが。
まあ、転移門を使えばそれこそ東大陸のジルダスから持ち込むのだって不可能じゃあないけど。
でも現実的な話として、魔術師以外だったら転移門で持ち込む荷物は高くつくから菓子を持ち込む人間は少ないし、魔術師はお土産を買ってくるなんていう気の利いたことをする人間はあまり居なそうだからなぁ。
貴族や商人が船で行って現地を回り、余程美味しい何かがあったらそこの国と国交を開いて転移門を設置しようってお偉いさんに働きかける程度だよな。
まあ、俺らの場合は変に国や魔術院のお偉いさんに借りを作るよりは、屋敷船で一晩寝ている間に移動して現地で買いまくって帰ってくる方が良い気がするが。
「おばあさまが凄く繊細で綺麗な耳飾りを持っていたから、いつか似たようなのを母上にプレゼントしたいって子供の頃に思っていたんだよね~。
折角行くんだったらケレナと一つ良いのも選んでみたいし。
頑張ってお金を沢山持って行かないとね。
ノルダスって普通にアファル王国の通貨で支払いできるのかな?」
シャルロがちょっと首を傾げた。
「・・・ノルダスまで足を伸ばすとは思っていなかったんだが、折角だから行こうか。
後で兄たちにあそこの国で売れる物に関して聞いておくよ。
一応金貨で取引も出来る筈だが、ある意味金が取れる国だったら金の価値が相対的に低いかも知れないな。
何かこちらの薬草とか陶器とかを持って行って売りつけてから換金して買う方が良いかも?」
アレクがメモを取りながら言った。
「行ったことも無いような国で物を売れるのか?」
スラムでも船に密航していたようなよそ者が流れてきて生活費の為に珍しい物を売ろうとすることが時折あったが、基本的に足元を見られて買い叩かれていたぞ?
まあ、スラムに流れ着いたよそ者とちゃんとした商会の坊ちゃんや魔術師じゃあ立場が違うが。
「商業ギルドっていうのは国が違ってもそれなりに提携しているからな。
他国の商人が物を売れないんじゃ話にならないだろう?
まあ、考えてみたら金にならなくてもある程度穀物でも持って行くとギルドの心証が良いかも知れないな」
アレクが言った。
あ~。
確かに高く売れる物ばっか持って行くよりも、一般市民が欲しがるような食糧を手ごろな値段で売ってくれる商人の方が喜ばれそうだよな。
「どうせ屋敷船に収納する場所はたっぷりあるんだ。
食糧が喜ばれるんだったら大量に持って行ったらどうだ?」
まあ、向うの人間が何を食べるのかは知らんがな。
肉ばっかで小麦はあまり食べない可能性もありか?
それこそ酒を持って行くと喜ばれたりw