1116 星暦558年 青の月 13日 遊ぼう!(3)
更なる情報収集や補給、料理担当や船長役(港での折衝役)の手配の為にもう数日掛けることになり、俺はその間に久しぶりに学院長に会いに来ていた。
何か北の方の小国に面白い見どころがあるか聞いて良い情報が手に入ったら嬉しいし、土産の希望も聞いておく方が外れが少なくなるだろう。
「お久しぶりです~。
今度ちょっと北の方に行こうと皆で思い立ちまして。
何か面白い場所ってあります?」
考えてみたら、夏にパストン島に行くなら誘うのもありって話を春先にしていたな。
忘れてた。
・・・今からでも誘うべきか?
北上した後に東大陸の方へ曲がって降りて来るなら最後にパストン島に寄るのも十分ありなんだが。
「北??
確かに今の時期には良いかも知れんが・・・お主らは相変わらず自由に生きとるな」
ちょっと呆れたように学院長が言った。
いや、でも今ってそろそろ学院祭の時期か。
それが終わるのを待っているのはちょっと微妙だな。
祭りが終わった翌日にさっさと学院長が学院の業務を捨てて遊びに行ける訳でもないだろうし、やっぱタイミング的には無理だよな。
なんだったら、帰ってきてから顔を出してパストン島に行くか聞くべきかな?
お土産を渡す時にでも聞けばいいや。
それだったらアレクとシャルロに意見も聞けるし。
「スイッチを入れたら水を補給できる消毒機能付きな水筒を作り終えたところなんですよ。
それなりに行商をする商家とか軍部にも売れそうだし、変に初期の使用者から変更希望を気楽に頼まれない様、王都から離れちゃうかって話になったんです」
北の方が涼しそうだし。
避暑だけだったらレディ・トレンティスのところに遊びに行かせてもらっても多少は涼しくなるが、あそこはやっぱ『多少』程度だからな。
オーパスタ神殿遺跡だと埋まっている分涼しいから悪くは無いんだが、それでも真夏に作業をしたらそれなりに汗ばんで暑いからな。
どうせ無料で手伝いするなら自分の所で色々と魔術を使ってやってくれてもいいのにとシェイラにチクリといわれてしまうのも嫌だし。
というか、それだったらシェイラに夏の間だけ1月か2月、北の方のオーパスタ神殿遺跡で手伝いを出来ないのか、聞いてみたら良いかも?
いや、ツァレス達の実務能力を考えるとうっかりシェイラを引き抜くと帰ってきたら皆が暑さに当てられて行き倒れているかも知れないから、危険かな。
ついでにまだ年の半分しか過ぎてないのに『うっかり』予算を使い切りそうな気もしないでもないし。
シェイラが予算利用の実質的な管理者なんだが、形式的な本当の管理者はツァレスだから、あいつがシェイラが居ないところで勝手に無駄遣いの暴走を始めても誰にも止められないしキャンセルも出来ないんだよなぁ。
シェイラも大変だ。
ツァレス達が倒れたら治療費が高くつくし、水筒の試作品をちょっと多めにシェイラに渡しておくか?
魔石はしょうがないから夏の間だけは休息日に遊びに行くときに補給しても良いし。
・・・いや。
あまり至れり尽くせりにして甘えることを覚えさせない方が良いか。
シェイラが居なくなったらマジで生存が危ぶまれるなんてことになったら、いつかシェイラがやりたい発掘作業や役職が出て来てもフォラスタ文明の発掘隊の作業が終わるまでシェイラは移動できないなんてことになっては困る。
俺としては転移門が近くにあるあそこはオーパスタ神殿遺跡とかよりもずっと都合がいいんだが、シェイラのキャリアだからな。
変に他者をシェイラに依存させるようなことはしない方が良いな。
それはさておき。
「ふむ。
消毒作用付き、ね?
軍部がどこぞの災害現場へ救助に入る時とか、疫病発生時の隔離地点での利用を考えての事か?
中々面白いな」
学院長が顎を撫でながら言う。
「魔術師にとってはそんな物を持ち歩くよりも木のコップでも適当に腰にぶら下げておく方が良いんですけどね。
ちなみに、北の方の小国で面白い特産物とか、あっちの方に行って行方不明になった有名な船とかって何か知りません?」
沈没船に関して学院長が詳しいとは限らないが、歴史には詳しいみたいだからな。
「北の方ねぇ。
石炭を使って鉄を鍛えるせいでこちらの木炭を使う鉄より固くて錆びにくい鋼とやらが出来るという話は聞いたな。
態々輸入する程の需要は限られているようだが」
へぇぇ?
鋼、ねぇ。
火蜥蜴と契約した魔術師が魔剣を作ろうとする場合なんかに鋼を鍛えることもあると以前スタルノから聞いたが、一般の鍛冶師には難しいって話だった。火蜥蜴を使わなくても鍛えられる鋼と言うのをちょっと見てみるのは楽しいかも?
港町に腕のいい鍛冶師が居ればだが。
スタルノあたりにちょっとそこら辺の噂を知らないか、聞いてみようかな。
ちょっとドワーフっぽく連想・・・
別にドワーフが北に住んでいると言う訳じゃあ無いんだけど
(ドワーフもエルフも居ない世界です)