1114 星暦558年 青の月 11日 遊ぼう!
「次は何を開発しようか~?」
創水機能付き水筒の契約まで全て完了し、家族や親しい人間への試作品の配布も終わった俺たちは休息日明けの朝食後にお茶を飲みながらのんびりと工房でだべっていた。
「なんかさぁ、久しぶりに純粋に遊びっぽい事をしないか?
遺跡発掘の手伝いとか、沈没船探しとか、妖精の森で温泉に入るとか、適当に海の上を屋敷船で漂うとか、なんか気楽に遊ぼうぜ」
先月初めにパストン島に行ったが、あれも遊びと言うよりはちょっと気分転換も兼ねた投資先の点検っぽい遠出だった。
そう考えると年初からほぼ働き詰めだ。
折角それなりに良い感じに稼いでいるのだ。
もう少し気楽に遊ぶべきだろ、俺たち。
それこそ誰か(現時点ではシャルロが一番乗りになりそうだが)に子供が出来たら気楽に3人(ケレナが来るなら4人)で長期的な遠出っぽい遊びは出来なくなるんだから、今のうちに年に一度ぐらいはがっつり遊んでおくべきだろう。
結婚が人生の墓場かどうかは賛否両論だが、少なくとも子供が出来たらガキを放置して俺たちだけで遊びに遠出する訳には行かなくなるから、今のうちに人生を遊び楽しまなくちゃ。
まあ、貴族なんかは乳母と教育係に任せて親は社交シーズンになったら数か月ずっと子供と離れて過ごすような家も多いらしいが。シャルロのところは仲良く家族全員揃って王都と領都を移動していたらしいから、シャルロも子供を放って長期的な遠出はしなくなるだろう。
「ふむ。
久しぶりに何処かへ気楽に遊びに行くのも良いか。
我々がここにいるとあちこちから微妙な修正案が入ってきて創水機能付き水筒の商品化も遅れそうな気もしないでもないし、この際ちょっと王都を離れるのも一石二鳥で良いかも知れないな」
アレクが頷いた。
「え、何か創水機能付き水筒に問題があるの?
修正した方が良い点があるなら残った方が良くない?」
シャルロがクッキーの缶を開けながら尋ねる。
「いや、初期の利用者って我々が既に考慮して止めたアイディアや、現実的じゃないアイディアや、あっても要らんだろうと思うようなアイディアを色々と善意で提案してくる人間が多いんだよ。
特に、身内が開発したと思っていると本当に善意なつもりで色々と言ってくるんだ。
場合よっては確かに素晴らしいアイディアもあるんだが、そう言うのを一々聞いていたら正式商品化がますます遅れる。
だからこういうのは一度改造は打ち切ってさっさと売り出しをしてから、1年後ぐらいに改善案を取りまとめて検討するぐらいの方が良いんだ。
だけど善意のアイディアなんかだったら最低でも一度は耳を貸さざるを得ないだろ?
お蔭で我々を含めた関係者全員のかなりの時間が無駄になるんだ」
アレクがシャルロの手にあるクッキー缶に手を伸ばしながら説明した。
「善意の提案って意外と邪魔だよな」
耳を傾けた方が良いアイディアも時折含まれるから完全に聞く耳を持たないスタンスじゃあ良くないが、どうせ今商品仕様を変えるつもりが無いんだったら聞くだけ無駄なんだよねぇ。
機能設計を変えられる我々が居ないってことで『ご意見を伺っておきます』で全部一律棚に投げ込んで置ける形にするのが誰にとっても一番良い対応だろう。
「じゃあ、王都を離れようというのは決まりとして、何をする?」
久しぶりに妖精の森に行っても良いんだが、あそこって辿り着きやすい時期って言うのがあるらしいよな?
「う~ん、妖精の森は今ってあんまり接触しやすくないらしいんだよねぇ。
しかもあっちでは暗黒界に近づいているらしくってちょっと戦闘が多くなっているらしいから手助け要員として行くなら歓迎されるかもだけど、僕たちは休まらないね」
シャルロがクッキーの缶を俺の方に差し出しながら言った。
「困っていて手伝いが居るって言うのなら行っても良いが、特に必要ないなら態々戦うために遠出はしたくないな。
シェイラが発掘している遺跡のあるヴァルージャは南の方だから夏にはあまり行きたくないし。
森の中だから王都よりはましとは言え、それでもそれなりにあそこは暑いぜ。
そう考えると東大陸もなしだな。
まあ、東大陸をジルダスからもっと北上して何か新しい場所が無いか見て回っても良いが」
2年前の王太子の結婚式騒ぎで結界をはった時ほど酷くは無いが、やはり王都は暑い。
遠出して涼しい所に行きたいな。
「どうせだったら、東大陸ではなくこちらの大陸を海岸沿いに北へ行ってみないか?
何もなかったらそれこそ北の方で東に航路を取って東大陸の北部に辿り着けないか試してみるのも良いし」
アレクが提案した。
「北の方って言ったら小国が幾つかあるだけで、あまり良く知られていないよね。
ちょっと遊びに行って、色々見て回るとか、なんだったら帰りに海底をゆっくり進んで何か沈没船が無いか探すとかしても良いかも?
ケレナにも興味があるか、聞いてみるね!」
シャルロがクッキー缶から更にもう一枚クッキーを取り出してから蓋を閉め、立ち上がった。
そうだよなぁ。
長期休暇で奥さんを誘わないと角が立つな。
北の方で大きな鷹とか熊とか見かけたら、ケレナも楽しいかも?
そいつらをアファル王国に連れ帰るのはちょっと難しいかもだが。
『友人と遊ぶ』のから『家族で遊ぶ』への過渡期?