1111 星暦558年 青の月 4日 創水の魔術回路(15)
『これとこっちは効果ないな。
こっちは抜群だけど下手に中に水が残っていた場合にその水を飲んだら危険かも。
こっちは一応効果ありで安全かな』
ここ数日、消臭と美顔用の魔術回路をあちこち切り離して試作品を造り、幾つか溜まったら清早か蒼流に確認してもらう作業をやっている。
魔術学院を卒業してから7年経ち、それなりに魔術回路の意味合いや効果が分かる部分も増えてきた。完全に魔術回路として機能しないような切り方は減ってきたが、それでも消毒なんて言う始めてな効果を求めてやっていると大分と空振りが多い。
とは言え。
「消毒の効果が残った水が危険って・・・何それ???」
思わず今回の試作品の確認をしてくれていた清早に聞き返す。
『消毒で殺そうとしている菌だって、生き物なんだぜ?
人間にも同じく殺す効果があっても不思議は無いだろ?
瞬間的に効果が発生して中に入っている水にそれが移らないやり方なら良いけど、場合によっては移るのもあるからそう言うのは撥ねた方が良いって蒼流が言ってたよ?』
あっけらかんと清早が言った。
菌とやらも生き物なのかぁ。
菌が全然いない部屋を作ったら病気の看護とかに良いんじゃね?と提案しようかと思っていたんだが、そう単純な話じゃないらしい。
まあ、撥ねられないで最終品の候補として残った魔術回路もあるから、そこまで危険な物は少ない様だが、イマイチ何がどう違うのか分からない。
「そんじゃあ次はこっちね~」
大丈夫と言われた試作品を〇の張り紙がしてあるテーブルの上に置き、駄目と言われたのを×の張り紙がしてあるテーブルに起きに行っていたら、シャルロが自分の造り上げた試作品を持ってきた。
シャルロだったら蒼流が確認したがるんだろうが・・・取り敢えず交換でやることになっているのでこっちに来たっぽい。
『ん~。
こっちは効果なさげで、こっちは危険、これは一応効果あり』
清早が魔力をさっと通してあっさり試作品を振り分ける。
う~ん、精霊が何を視ているのか、興味があるところだなぁ。
俺も心眼をがっつり集中して効果があるって言われた魔術回路を使う前と後で視比べたのだが、全然違いが分からなかった。
その菌とやらも生き物なんだったら心眼で見えてもよさそうなものだが・・・全く魔力が無いのかね?
考えてみたら魔術師だと掛かりやすいとか掛かりにくい病気ってあまり聞いたことが無いから、その病気の元になる菌とやらは魔力に対する反応が特にないのかな?
魔力が全然なくても人間を害せる生き物なのに、何らかの変異で魔力を帯びる様になったりしたらめっちゃ危険な存在になりそうだな。
それこそ魔術師だけを殺しちゃう菌とか、反対に魔術師以外は生き残れない菌とか。
まあ、そんな疫病が流行ったら人間の社会が崩壊しちゃうから、少なくともアファル王国までそれが広がる前に蒼流が何とかしてくれそうだけど。
農家ならまだしも、俺達じゃあ周囲の人間が皆死んだ場合に飢え死にしちまう。
農家が生きていれば鍛冶系は俺がやれるからある程度は生きていけるかもだが、人間ってそんなに簡単に自立して生きていけるって訳じゃあないからなぁ。
スラム時代だって金を盗むだけでなく、生きる為には食糧や服や靴や道具が色々と必要で、スラムの孤児だとそう言うのを買おうとしても足元を見られてぼったくられ、ぼったくりがむかつくから盗むとスラムのガキは誰もかれもが盗人だと言われて更にむかつくという悪循環だった。
そう考えると・・・一人の人間が生きるために必要な物を作る人間って意外と沢山必要なんだよなぁ。
そこら辺を蒼流がしっかり理解してくれていると良いんだけど。
もしも国が滅びそうな勢いの疫病が流行り始めたら、シャルロにその点を蒼流に言及するよう言っておく方が良いかな?
それはさておき。
「ちなみにその『効果』というのはどうやったら程度を判断できるのだろうか?
効果があると言われた魔術回路を今度は消毒効果に対する魔石消費の効率と兼ね合わせて評価する必要があるのだが」
アレクが清早に声を掛ける。
まだアレクが担当の試作品を作り終えていないが、大分と素材の山がすっきりしてきたので殆ど終わったのかな?
『う~ん・・・あれとこれだったらこっちって感じに優劣を評価するのは可能だけど・・・』
清早が悩みながら言う。
『菌が増えると色が目につく物を持って来よう。
それを振りまいた後に消毒の魔術回路を使い、数時間後に中がどうなっているかを確認したらいいのではないか?』
蒼流が口を挟んであっさりと解決策を提案した。
それで何とかなるのかね?
ヤバい菌が増えたせいで色が付いた水なんぞ見たくも飲みたくもないぞ??
数時間でそうそう色が目立つ程増える菌なんぞあったら怖いけど、異世界なのでと言う事でw