1110 星暦558年 青の月 2日 創水の魔術回路(14)
「消毒って言ったら病人とかを良く診る神殿に彫り込まれてそうな気がするけど・・・流石にそれを勝手に貰っちゃあ駄目だろうし、商業利用の為に写させてください~って頼むのも無理だよねぇ」
ちょっと残念そうにシャルロが言った。
消毒効果も付け加えようと魔術院の特許資料室にまた調べに来たのだが・・・イマイチ見つかっていない。
と言うか、消毒って術としても魔術師がやる系統じゃないから、魔術回路があってもその効果をしっかり確認できるか微妙なんだよなぁ。
病気にせよ怪我にせよ、治療は基本的に神殿に任せているからなぁ。
怪我を負ったら傷口は奇麗に洗い流した方が良いって言うのは知っているから消毒の重要性もそれなりに想像は付くけど、俺らとしては偶に神官とかが何やらやっているのを見たことがあるかもって程度だからあまり実感がない。
魔術回路にしてもどんな魔具に消毒効果があるか、改めて考えてみると知らないし。
お蔭で魔術回路探しも、思わずシャルロが神殿から貰えないかと言い出すぐらいに進展がない。
「考えてみたらさ、美顔用の魔具って元々は清浄効果があった訳じゃん?
あれって突き詰めれば消毒効果が無いか、確認してみないか?」
たしか、ニキビが減ったって話を若いメイドがしていた筈だから、もしかしたら多少は悪い何かを消す効果があるかも知れない。
まあ、それが病気の元の存在を消すほどの効果があるか不明だし、どうやってそれを確かめるのかも分からんが。
「確かに、清浄にするというのは浄化や消毒に近い効果の可能性もだな。
水を消しちゃったらダメだが、抽水前だったら問題無いだろう。
あと、考えてみたら消臭用の魔術回路も腐った臭いを消せるなら何か消毒的な効果もあるのかも?」
アレクが頷きながら提案した。
そう言えば、消臭用の術を使うと腐臭とかを単に風で臭い空気を拭き散らすよりも長い間効果が続く。
腐って悪臭を生み出す何かを清めて消している可能性だってゼロではないのかも知れない。
「そんじゃあ消臭用の魔術回路を幾つか漁っていくか。
もしも消毒用の魔術回路がその間に見つかったらそれはそれで運が良かったってことで」
少なくとも消臭用だったら幾つかあるのは知っているので、何も見つからずに不毛な捜索に時間を費やすよりはマシだろう。
「だけどさ、考えてみたら消毒効果ってどうやって調べれば良いのかな?
水に口を付けた後に放置して、半日後に飲んでお腹が痛くならなかったら良いかもって言うような感じの調べ方じゃあ正確性がイマイチだよね」
シャルロがちょっと困った様に指摘した。
確かに。
それに、スラムで色々口にした俺の方がずっと蒼流に守られてきたシャルロより胃が強いと思うし。
アレクは行商見習いもどきな事をやっている時に時々うっかりやらかして苦労したらしいが。
『菌が消えているか、我が教えよう』
蒼流がふいっとシャルロの横に現れて言った。
『あ、俺も教えられるよ~』
清早も出てきて言ってくれた。
「お?
そうなんだ。
ありがとな」
そう言えば、毒に対処する為に蒼流や清早に近しい人の保護を水精霊に頼んでいるが、考えてみたら俺らってここ数年は全然風邪に罹って無いんだよな。もしかして、病気の対策もしてくれていたのかも?
・・・学生時代に風邪を引いた時って清早に会う前だったっけ、後だったっけ?
どちらにせよ、病気の元って何かは水精霊が分かっている可能性が高そうだ。
それに対処しないといけないと意識しているかどうかは別として。
『菌』だっけ?
なんだか知らんが、それが無ければいいんだったらそれを消すのを魔術回路で再現出来れば良いんだろう。
何か魔術でその菌とやらがあるか調べる方法がないか知りたいところだが、そんな魔術があるかって精霊に聞いても上手く意味が伝わらない事も多いからなぁ。
元々、魔術師がどんな術を持っているかなんて精霊はあまり興味が無いから、偶然気付いたんじゃない限り『知らない』としか答えようがないだろうし。
俺らに何をどう調べるのかを説明して貰おうとしても、イマイチ感覚が違いすぎて精霊の言葉を理解できない可能性が高い。だからちゃんと消毒が出来てるって言われても自分で術や魔術回路を使って調べるのも難しそうだ。
蒼流や清早に手伝って貰って造り上げた上で、神殿にでも確認を頼むかな?
調子を悪くする病原菌や炎症はスパスパっと消し去っていく蒼流と清早。
すっかり過保護に守られているから今だったらスラムの水を飲んだらウィルも腹を下しそうw