1103 星暦558年 紺の月 25日 創水の魔術回路(7)
「あれ?」
土の決まった成分を抜き出す魔具の試作品を取り出して来て抽出対象の所に水を入れて起動させてみたら、一瞬魔石が消費され、微量の水がトレーの上に溜まり・・・それで終わってしまった。
「もしかしてこの魔具ってこっちの部分の上にある一定の空間内の空気なり土なりしか抽出元の対象としないから、空気を対象にするなら風でもずっと吹きつけ続けなきゃダメなのかも?」
シャルロが指摘する。
「風を吹き付けるのも面倒だから、範囲指定の部分の魔術回路を修正して部屋全部にするか」
魔術回路の入った箱の蓋を開く。
「人間が範囲に入ったまま水を抽出したりしたら不味くないか?」
アレクが指摘してきた。
確かに。
生きている人間から水を抜き出せる程の効果があるかは知らないは、危険そうではある。
外から魔術で火や水を当てるのはまだしも、体の内部に変化を及ぼすタイプの魔術っていうのは相手の魔力が対抗するせいか効きにくいので、適当に作って出力も大して無い魔具程度で何かできるとは思えないが、多少なりとも不調の原因になる可能性はある。
人の背より高い部屋の天井付近だけを範囲とするか?
ちょっと面倒だなぁ。
『生き物を対象から除く』みたいな何か使い勝手が良さげな魔術回路がどこかに無かったっけ?
「土の成分を抽出するこれではなく、東大陸から香辛料とか茶葉を持ち帰る際の船倉の湿度調整用に買った魔具はどうだ?
あれって水が溜まって定期的に捨てなきゃいけないって話だったから・・・要は空気中から水を抜き出しているんだろうと思うが」
アレクが提案した。
「確かに!」
湿度調整のあの魔具って湿度を調整する過程で空気中から水分を抽出しているが・・・湿度を感知して調整する必要はない。
あれは人がいる店の中とかに置いても問題ないらしいし。
水を抽出って部分だけがどの部分かを確認する為に、まずは魔術回路をぶった切りしまくって色々試作品を造らなきゃだな。
◆◆◆◆
「どうもこっちのここで湿度を計測して、それをここの数値と比較して水分を抽出するかどうかを決定しているっぽいね」
湿度調整魔具の魔術回路を分解して色々と試してみたところ、魔術回路の機能が大分と分かってきた。
「湿度を計測せずに、単に抽出する水の量をコップ一杯分としておいて、それだけ水を溜めたら止まる形にしたらどうだ?」
周囲の湿度次第で水を抽出する効率は変わるだろうが、別に湿度を知りたい訳ではない。
まあ、冬場なんかに部屋が乾燥しすぎると喉に悪いし肌荒れの原因にもなるって言うから、遠乗りはまだしも冬は室内でポットの水を継ぎ足す用としての使い方はしない方が良いかもだけど。
「コップ一杯という水の単位を魔術回路にどうやって認識させるかが問題かもだな」
アレクが眉を顰めながら言った。
「だったら水筒の中の決まったところが濡れたら魔術回路が阻害されて止まるようにしておいて、中の水がそこまで溜まったら止まるって言うので良いんじゃないか?」
うっかりすると魔術回路が水で破損するかも知れないからそこら辺は要注意だが。
「まあ、試してみるか。
そうじゃなかったら手でスイッチを切る形で止めるのでも良いんだし」
アレクが頷きながら言った。
考えてみたら、手でスイッチを切る形にしておけば一人がこの水を抽出する水筒を持っていれば残りの人間は普通の水筒を持って来ておいて、無くなったら水を順に注いでもらうのも可能になるな。
「範囲指定はした方が良いのかなぁ?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言った。
「元々は部屋の中に置いたら部屋を乾かすという感じだったから、範囲指定は無いんじゃないか?
付けた方が魔力消費の効率が良いかを確認した方が良いだろうが」
アレクが応じる。
範囲指定って結界でも設定するなら簡単だが、単に周囲のここまでって相対位置に基づいた範囲指定にすると意外と魔術回路が複雑になるし、複雑な魔術回路って魔力消費が激しくなるんだよなぁ。
「取り敢えず、2メタ立法ぐらいな結界を展開してその中でこれを使うのと、なしに普通に外で使うのとで魔石の消費量がどのくらい変わるか試してみて、節約になりそうだったら頑張って範囲指定の魔術回路を探すって言うのでどう?」
シャルロが提案した。
確かに、先に範囲指定の魔術回路を見つけなくても、結界を自力で張って範囲指定のある状態と無い状態を確認してから頑張って探すか決めれば良いか。
取り敢えずこれで大体形になりそうかな?
結界を展開して水を抽出出来る範囲を狭くしても、もっと広いところから抽出しようと魔具側が頑張っちゃったら魔石の消費が減らない気がするけど・・・取り敢えず、結界で囲ったらそれ以上の範囲へ働き掛けないと言う事にしましょう!
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カクヨムさんで別に書いている短めに終わる予定(希望!)な話の最新話を久しぶりにアップしました。
良かったら読んでみて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678




