1101 星暦558年 紺の月 23日 創水の魔術回路(5)
「取り敢えず、水を創る魔術回路を改善出来ないか試して、改善した場合に攻撃魔術側の効果も上がるか確認しよう」
色々と話し合った結果、先ずは何が出来るかを試してから、ヤバそうだったらシェフィート商会に持って行く前にウォレン爺の所に相談に行くことに決まった。
まあ、水を創る魔具が出来たからって水系の攻撃魔術がそこまで威力が上がると思わないんだよねぇ。
と言うか、海の航海に必要なせいか水精霊と契約していたり加護を貰っている魔術師がそこそこいるんで、水系の魔術で攻撃するのって突き抜けて適性があるんじゃない限り無効化される可能性が高いんだよね~。
俺だって、水系の攻撃魔術は清早が無効化してくれるんでシャルロの攻撃以外だったら心配する必要は無い。
と言うか、当たっても害にならないんだよね。
水で溺れないのと同じで。
俺以外の人間に関しては流石にそこまでの効果は無いが、味方に負けて欲しくないんだけどとお願いすれば、人間の魔術で動かした水なんぞ水精霊の干渉力には足元にも及ばないのでせいぜいちょっとした土砂降り程度になるかもと言うところだ。
ちょっと形を変えた氷系の魔術にしたらもう少し効果はあるが、水を氷に変えてから攻撃魔術として打ち出すような魔具はめっちゃ魔力を喰うと思われるから、考える必要も無いだろう。
で、実際に水を創る魔術回路を試作したのだが。
「う~ん、火とか風って魔力をちょっと変換させれば何とかなるのに対して、水を創るのって魔術だとそれ程大変な感じじゃないのに、魔術回路でやろうとすると妙に効率が悪いね」
試作品に魔力を流してみたところ・・・数滴の水がゆっくりと宙に現れてコップの中に集まっていった。
めっちゃ遅い。
霧吹きで蒸気を窓に掛けて水滴が垂れるのを待つのよりは少しマシなぐらいかも?
ちょっとこのペースで水が出て来るのを待っていたら飲むのに時間が掛かりすぎる。遠出してても家に帰り着いちまうだろう。
と言うか、これってちょっと魔術回路の摘出に失敗したよな??
どう考えてもこれを使って攻撃魔術なんぞ放てんだろ?!
「水や土を創って放つ攻撃魔術は風や火系の攻撃魔術よりも魔力効率が悪いと言われていたが・・・魔道具にするとここまで悪いとは、想定外だったな。
もしかして、ちゃんとした魔術と同等か多少劣る程度の効率な魔術回路は全て回収されているのか??」
アレクがちょっと呆れたように言った。
「考えてみたら、土を掘る魔術とかちょっとした石礫を放つ魔術はあるが、大きな岩の槍とかを放つ術とかってあまりないよな」
水だったら水の槍を放つ術もあるんだが、土は石礫より大きな攻撃手段ってあまりないかも?
土壁を作る術はあるが、あれって反対側に堀を作るから、要は地面を掘って出てきた土を固めて壁にしているだけだよな。
「物質を魔力で創り出すのは非常に効率が悪いと授業で習っただろう。
風は魔力でそこにある空気を動かすだけだし、火は熱を魔力で増減させるだけ、水は雨のように自然にある水分を集めているので余程カラカラな場所じゃない限りそれなりに出来るが、土系はそこら辺の埃や地面の土を掠め取って纏めて放っているから石礫よりも大きな攻撃魔術になると大変なんだとか先生が言っていただろう」
アレクが授業で習ったことを思い出しながらか言った。
「あ~。空気に含まれる水って意外とあるからコップ一杯程度は全然問題ないけど、みんなで水系の攻撃魔術をどっか遠くへ放つと空気がカラカラになって自然発火の危険度が高まるから気を付けろって誰かが言ってたよね~。
あんまり僕は空気から水を絞り出している感覚が無かったから実感ないけど」
シャルロが相槌を打つ。
あれ?そんなこと言ってたっけ?
テストに出てこないような内容の雑談って案外と聞き逃している事が多かったんだよなぁ。
特に必死になって勉強に追いつこうとしていた時期なんかだったらノートを書くのに忙しかったし。
でも確かに、この術で水を捻り出しているのと、俺が魔術で水を出すのと感じが違うから、もしかして俺らも使う魔術と根本的な原理が何か違うのかも?
そうなるとますます魔具の開発には問題ありかもだが。
「地面は動かないし固いから集めにくいんかね?
まあ、どうでも良いっちゃあ良いが。
土の槍で攻撃する術を開発したら味方の陣営の地面にボコボコ穴が開きまくったりしたら困るしな」
地面に穴が開かなくても踏み固められていた土が柔らかくなったりしたら荷馬車とかが轍とかに嵌って動かなくなったら面倒だし。
まあ、それはさておき。
「取り敢えず、水だ。
もう何通りか創水の魔術回路の摘出を試してみて、どれも同程度に駄目だったらもう少し何か違う原理に基づいた魔術回路を考えないと話にならんな」
これだったら、少なくとも俺たちは単に水筒を持って行ってその中に水を生み出せばいいだけだ。
ちょっと横道に逸れたかな