110 星暦551年 緑の月 4日 使い魔召喚
教室の中で興奮した生徒たちの話し声があちこちから聞こえてくる。
今日は待ちに待った、使い魔召喚の授業なのだ。
「ウィルとアレクは何を呼ぶのか、決めた?」
『わくわく』という気持ちが顔に書かれているシャルロが聞いてきた。
「う~ん・・・それこそ、夢をみるんだったら空を飛べるドラゴンとかフィーニックスとかがいいんだけど。でも、そんな大きいのをコントロールできるほどの力は無いし、第一食費がかかり過ぎるからな。
行き当たりばったりにいこうかなんて考えているところ」
ドラゴンなんて、下手したら平均的一軒家ぐらいのサイズだ。
そうなると王都の街中で飼うのは絶対無理。
つまり使い魔にドラゴンを呼んでしまった人間は、王宮の厩舎を使える竜騎兵になるか郊外に住む以外選択肢が無い上、羊を毎日1~2匹と言ったバカみたいな食費まで賄わなければならない。
まあ、その代わり竜使いとして生活するんだったら運び屋としてでも兵士としてでもそれなりに稼げるが。
でも、折角魔術師になるのに肉体労働者になるのもねぇ・・・。
俺としては出来れば日常を一緒に過ごせる、魔術師の俺に役に立つ使い魔の方がいい。
だが、それだったらどんな使い魔がいいのか・・・と聞かれてもイマイチ想像ができない。
翼系の幻獣だったら王都周辺の森で勝手に猟をさせて自給自足を狙っても構わないかなぁ・・・なんて考えているんだが。
「私は火の鳥がいいかな。知恵の結晶と言われる土妖精でもいい。勿論、ドラゴンが出てきても嬉しいが。そうなれば転移門無しで長距離移動も思いのままだ」
「僕はね、グリフォンがいいなぁ。グリフォンだったらボディーガードにもなるし。そしたら一緒に世界を飛び回って冒険をしまくる!」
使い魔を得るには、ランダムに召喚するのと、自分が捕えてきた(もしくは飼っていた)動物・幻獣と契約するのと二通りの方法がある。
ランダムに召喚するものは、召喚の呪文の一部に『使い魔になることに合意する』という条件付けがあるので最初から使い魔になる気のない相手は出て来ない。だから契約は比較的簡単だ。
それでも相性が悪ければ出てきた相手に振られることはあるけどね。
この場合、何が出てくるかは『XXがいい!』と強く願っていればそれが出てくる確率はある程度は高くなるものの、やはりランダムと言っていいレベルのことだ。
反対に、最初から動物や幻獣を捕まえておいて使い魔の契約をする場合は勿論使い魔の種類は自分で選べるものの、相手に拒まれる確率は高くなる。
まあ、普通の動物の場合は使い魔の契約によって知性レベルが引き上げられるまでは『契約を拒否する』という意思決定をするほどの確立した自我が無くって拒まれないことも多いが。
ただし、こういうのは使い魔になった後に主に逆らうことがあるし、酷い場合なんて逃げられてしまう。そんな知性の高い元使い魔は普通の動物には無い知性と、幻獣には無い人間への慣れがあり、手に負えなくなることもある。
元使い魔が悪さをしたら魔術師は大恥だし、元使い魔による被害に対する損害責任が生じる。だから余程面の皮が厚くしかも裕福なのでない限り、魔術師は逃げ出した使い魔を捕まえて処分しなければならなくなる。
幻獣の場合は知性があるから使い魔の契約に合意すれば大抵それなりに尽くしてくれるが、合意してもらうのに非常に苦労する。
しかも相手が折れるまで拷問したりごり押ししたりの場合はやはり後から反撃を食らうことも多い。
魔術師にとって、強力な幻獣に使い魔になってもらうことは大きなステップアップなので宝くじ感覚で使い魔の召喚を行う魔術師は多い。
ま、だからこそ授業で使い魔の召喚方法を教わるんだけどさ。
さて。
何が出てくるかな~。