1096 星暦558年 紺の月 20日 裏社会からの依頼(19)
「そう言えばさ、アレクのタイプな女性ってどんな人だと思う?」
街の中をふらふらと散策しながらふとシェイラに尋ねた。
「え??
アレクねぇ~。
彼ってそれなりに知性的じゃなきゃ我慢できないだろうとは思うけど、知性以外に関しては分からないわね。
がっつり商売好きなタイプだと話が合いそうだとは思うけど、特に私や私の商売好きな友人とそう言う意味で気が合うという訳でもないっぽいし。
・・・ウィルが男と女の関係に関して興味を示すなんて珍しいわね?」
ちょっと首を傾げながらシェイラが応じる。
「いやぁ、先日ちょっと裏関係で頼まれた仕事で知り合ったクソッタレ領主の愛人をさせられていた女性が転職できることになったんだよ。その人、凄く金とか情報の取り扱いがきっちりしている感じだったから、俺たちの事業の秘書というか事務職員として雇っても良いかも?と思って提案してみたんだけど・・・後からシャルロにアレク向けに紹介したの?って聞かれて」
あれには驚いた。
俺としてはアレクと上手くやっていけそうなタイプだし、しっかりしているから余計な負荷をアレクに掛けることなく助けになれそうかな?と思って紹介しただけなんだけど、シャルロに俺が女性の紹介なんて珍しいね~と言われたのだ。
明らかにシャルロの言い方は単に『生理的分類:女』と言う意味ではなく、社交的な意味で付き合うかもって言う意味での『女性』だった。
あの愛人がそんな職業に就く羽目になったのは本人のせいじゃないし、泥棒出身な俺としては愛人を下に見るつもりはないが、流石に愛人をやっていた女性を友人に女性として紹介するつもりは無かったんだけどねぇ。
恋人にするにしても、愛人にするにしても、やっぱ他人(知り合いよりはマシだが)の元愛人ってちょっと微妙な心境になるんじゃないんかね?
アレク本人が気にしないとしても家族が気にするかもだし。
第一、あの女性(キーナという名前らしい)だって暫くは男と女の付き合いは要らんって考えているんじゃないのか?
俺としてはシャルロがそう言う意味で俺の提案を受け取ったこと自体がびっくりだ。
「あら、確かにウィルが若い女性を近づけるなんて珍しいかも?
普段はなんか面倒くさそうなのに。
もしもアレクじゃなくて貴方が付き合うんだったら浮気状態になる前にしっかり私と別れて頂戴ね?」
シェイラがちろりとこちらを見ながら言った。
「いや、浮気するつもりは無いから。
ただまあ、アレクがそう言う関係になる可能性があるんだったら一応気を使った方が良いのか、何も見ない振りをするのがいいのか、どうなんだろ?
そうなる可能性があるんかな?」
シャルロに言われて考え始めたんだが・・・何も分からなくて色々と面倒になって来たんだよね。
もう、女性は止めて男を雇うべきかも?
「う~ん・・・ある意味、書類仕事って任された人間が悪意をもって情報を弄るつもりがあったら横領とかってかなり簡単にしやすいのよ。
もしも3人の事業の書類作業を担うことになる事務職員として雇う人間がアレクの恋人や妻になるとなったら、別の人間を雇うか、シャルロとウィルが今まで以上にしっかりと書類の確認をしないとダメでしょうね」
シェイラが想定外なポイントを指摘してきた。
ええぇ??
そりゃあ今だってアレクが数字のやり取りや資金の増減、契約の詳細とかをしっかり俺たちも自分の事として責任感を持って確認しろって口を酸っぱく言ってくる。
単に俺たちに怠けるなと言っているだけの話ではなく、横領とかっていうのは他の人間が興味を示さずに丸投げしていると起きやすいというのはどの事業でも同じ話ではあるから、一応頑張って目を通す様にはしているだけどねぇ~。
なんかこう、数字って見ているとだんだん滑って来るというか全部同じに見えるというか・・・。
キーナがアレクと付き合うようになるとなったら今まで以上にしっかり確認しろなんて言われるんだったら、ある意味雇わない方が良いんじゃね??という気もしてきたぞ。
「アレクも特に結婚願望がある様子でもないし、クソッタレな領主の愛人になんぞならされていた女性も暫くは男なんぞ要らないって感じだろうから、取り敢えずは静観するのが良いんじゃない?
変にからかうのは問題外として、気を使ったりするのも圧力と感じるかも知れないから何も気にしないのが一番かもね」
シェイラが指摘した。
あ~。
愛人をやっていたって知っている俺が紹介した仕事だとすると、変に気を使ったりすると却って友人への愛人として斡旋したのかと裏読みされる可能性もあるのか。
単にどっかの酒場とかでメイドの仕事するには勿体ない頭脳の持ち主っぽいから紹介しただけなんだけどなぁ。
取り敢えず。
何か言われるまでは何も気にしないことにしよう。
有能そうだから確保しようかな〜以上の事は特に深く考えて居なかったウィル、考え始めたら面倒になって放棄w