1090 星暦558年 紺の月 17日 裏社会からの依頼(13)
コンコン!
見た目は細くて文官肌っぽい副団長とやらが、ゼルパッグ伯爵家の玄関を叩く。
普通だったら先に人をやって訪問できるか伺うのが礼儀らしいが、そんなことをやっていたら証拠隠滅されてしまうので突撃訪問だ。
そして2階や3階のあちこちのベランダには第三騎士団の人間が待機して、強制捜査の宣言と共に中に押し入る準備をしている。
「ゼルパッグ伯爵!
国王陛下より委任された権限により、第三騎士団が強制捜査を行う!」
扉を開けた執事(多分)に対して副団長が声を上げ、その瞬間に俺も鍵を開けておいた2階の書斎の窓から中に押し入る。
心眼で確認したところゼルパッグ伯爵は昼食を食べ終わって優雅に新聞を読んでいる所なので、書斎には誰もいない。
家令は隣の部屋で仕事をしているので、一緒に突入した騎士に手ぶりでそちらを抑える様に伝える。
さっさと二重底になっている引き出しを開けて暗号文の符丁リスト(多分)を見せ、隠し金庫と床の隠し場所を暴いてから急いで家令の私室の方へ向かう。
書斎の隣にある家令の作業部屋(執務室と言う程の格は無い)に隠し金庫や隠し場所は無いので、あっちは普通に捜査させれば良い。
それよりも、違法副業関係は全部家令の隠し部屋にあるっぽいのでそっちを抑えないと。
「クロゼットの中、ですか?」
俺の後をついてきた捜査員がちょっと微妙そうな声を出す。
「隠し部屋がこの奥にあるんだよ」
クロゼットの奥の板を決まった手順で押して外し、中に入る。
「光よ!」
ランプもあるが、どこに仕舞ったのかは確認していないので探すのが面倒だ。
自分で造った光を天井の方に投げつけ、机の引き出しの鍵を開ける。
依頼執行前の暗殺関連の書類は何かの弾みで見られたら困ると思っているのか、これだけは鍵のかかった引き出しに入れていたんだよね。
とは言え、この程度の鍵なんぞあまり意味は無いが。
「後ろの壁際の棚にある書類も全部伯爵の違法な副業関連みたいだから、昔の物も含めて調べると色々と出て来ると思うぜ。
あと、ゼルパッグ伯爵は2番街にお気に入りな愛人を住ませているって話だが、そこは誰か調べに行っているのか?」
長から貰った愛人たちの住所を確認しながら一緒に来た第三騎士団の男に尋ねる。
名前を貰った疑わしい貴族3人ってどれも愛人を囲っているんだよね。
そこまで愛人が気に入っているなら、結婚なんぞしなければ良いのにと言う気がしないでもない。
まあ、愛人の子では爵位を継げないから結婚は必要なのだろうし、場合によっては妻の実家から金を援助してもらうこともあるのだろうが・・・だったら愛人なんぞ囲わないのが誠意と言う気がする。
まあそう言う夫の妻側はそれなりに火遊びしているのが多いから、やってやり返しての蓄積なのかも?
マジで貴族のやる事って無駄が多すぎて何を考えているのか分からない。
もっとも、貴族以外でも愛人を囲っている人間は多いが。
「次はペディアグナ子爵か?」
部下(多分)に壁一面の書類の確認を指示し終わった男が俺の方へ聞いてきた。
「いや、ペディアグナ子爵は誰が関係しているのか確認できなかったから、当主が自分で色々と書類を書いていたグアナス男爵邸で先に隠し金庫の場所を見せてからペディアグナ子爵の方に行こう」
グアナス男爵の屋敷は貴族にしては比較的小ぶりだし、本人だけが直接関与していたっぽいので(少なくとも、しこしこと書類を書いて隠し金庫に仕舞っていたから本人以外も関係しているとしてもそいつは使い走り程度だろう)、先にあっちの必要書類を抑えて終わりにしておきたい。
実際に暗殺者を秘密裏に王都へ連れ込み、匿っている人間の情報はあいつが持っているんだしな。
さっさと抑えておくに越したことはないだろう。
と言うことでグアナス男爵の家に行ったら、既にちゃんとそっちに行った調査員が隠し金庫の場所を見つけていた。
まだ解錠出来ていなかったが。
それなりに何とかなりそうな雰囲気だったので、首を突っ込まずにさっさとペディアグナ子爵邸へ向かった。
「ここは伯爵家からの命令書を捨てているのか、少なくとも当主の寝室や書斎の隠し金庫にそれっぽい書類は無かったんだ。
暗号に何か隠されている可能性もあるが、そこら辺の解読は任せる」
そう言いながら2階の書斎に行き、隠し金庫と絡繰り箱の隠し場所を暴いて捜査員にそちらは任せる。
「で。
もしかしたら子爵自身が関係していないで使用人の誰かが関与している可能性もあるから下から順に全部の部屋を確認する」
流石に2人ずつ暮らしているメイド部屋とかに機密情報が隠されている可能性は低いと思うから、上の使用人部屋は後回しだけどな。
がたがたと怒鳴り声をあげて抗議しているペディアグナ子爵を無視して、まずは地下室の方から始めよう。
男爵家の隠し金庫の解錠には半日掛かったのでしたw
何とかなりそうと安心して任せたウィルと、見栄を張って助けてと言わなかった解錠担当は残業することになった捜査員達から密かに恨みを買ったとか・・・




