1089 星暦558年 紺の月 16〜17日 裏社会からの依頼(12)
「伯爵家の家令が男爵家の当主に指示を出すのかぁ」
忍び込んだグアナス男爵家の書斎(と言うか本棚と机のあるだけの小部屋)で見つけた鍵のかかった引き出しの中に隠されていた書類を漁りながら思わず呟く。
結局、夕方に話が来た当日の夜にそのまま強制捜査をするのは無理と言うことなので、俺の知っている事を話した後に俺はグアナス男爵家を調べに行くことになった。
今晩中か明日の朝に俺が依頼主の方へ話を流し、第三騎士団の方でも強制捜査の手続きをして、午後から一気に三家の屋敷を取り押さえることに決まっている。
捜査の手続きなんてしたら情報が漏れんじゃないかね~と思っていたが、どうやら強制捜査の場合は捜査対象を拘束し終わった瞬間に王宮の方へ提出する書類を準備するのが『事前手続き』らしい。
王宮の方へ事前に書類を提出しないというのは驚きだった。
やはり提出すると情報が漏れるということで、意図的に漏洩元を探そうとしている時以外は事後報告をする決まりになっているらしい。
決まりと言うか、事後報告にしても軽く叱られるだけで済むようになったというのが正しいか。
と言うことで、グアナス男爵の隠し書類をざっと見ているのだが、見覚えのある筆跡で書かれた指示っぽい手紙が目の前にある。
一応暗号を使っているのか読んでもイマイチ意味が分からないが、筆跡は昨日調べた家令の書類と同じなので、あの家令が書いた指示書なのだと思う。
その指示書(見た目は何やら領地の農作物の売り込みっぽい形になっている)とは別に、一緒に仕舞われていた宿屋や船の手配の情報や賄賂の送り先などを見るに、グアナス男爵が実際に暗殺者を港で引き取り、隠れて滞在する場所を手配する役割らしい。
ゼルパッグ伯爵が依頼主探しと東大陸での暗殺業者との伝手を持ち、グアナス男爵が暗殺が決まった後の実務関係を請け負っているとしたら・・・ペディアグナ子爵は何も関係が無いか、もしくは情報収集とか邪魔になった人間の始末をしていると言ったところか?
流石に都合の悪い情報を知られた人間の始末まで東大陸の暗殺者を使っていたら赤字になってしまうだろうから、下っ端の警吏や役人や不都合な人の動きを見られた船乗り程度を殺すなら適当な破落戸に伝手があれば出来る。
そこら辺はますます書類なんぞ残さないだろうから、金の動きはあるにしても指示とかの書類は残っていなさそうだな・・・。
二重帳簿が隠されている愛人宅でもないか、後で長に進捗報告に行く際に聞いてみるか。
取り敢えず、少し前の指示っぽい手紙を2枚ほど抜いておき、引き出しの二重底に隠されていた暗号の符号らしいのを書き写しておく。
これでもしも強制捜査で取り押さえる前に男爵に書類を処分されても、ある程度の証拠は残ると期待したい。
男爵家の家令は家や数少ない使用人の管理で一杯一杯なのかヤバい副業の手助けはしていないようなので、男爵を拘束出来れば書類を捨てられる危険性は下がると思うが。
◆◆◆◆
「ほおう?
午後には強制捜査をするのか?
随分と動きが早いな?」
進捗状況を報告しに行ったところ、長はワインを片手に楽し気に呟いた。
「ウォレン・ガズラートを暗殺すると話が出てきたので、急ぐことにしたようですね。
本人は自分を囮に証拠固めをしようと提案していたんですけど」
ジジイなんだ。
短い将来がうっかり断ち切られても構わんだろうと本人が言っていたのだが、偉そうなおっさんの方が『まだ死なれたら困る!!』と主張して万が一にでも暗殺が起きない様にさっさと伯爵・子爵・男爵たちを一網打尽にして捕まえると決めた。
子爵が本当に関与しているかはまだ分からんが。
あそこだけは書類が見つかってないからなぁ。
まあ、暗殺ギルドの情報は正確なようだから多分子爵も何らかの形で関与しているんだろうが。
と言うか、ウォレン爺も多分シャルロが蒼流に頼んで水精霊を付けていると思うから、毒を盛られても死なないと思うんだけどね。
死なないからってことでプライドに賭けても殺す!ってナイフで首をスパッと切られたりした場合はどうか知らんが。
蒼流だったらそれこそ胴体と首がスパッと切れてもその場ですぐにそれを繋ぎ直しそうな気がするが、小さな精霊だったらそこまで万能じゃない可能性が高いからな~。
失ったら困る人間だったらさっさと襲撃者側を拘束する方が無難かも。
とは言え。
引退したジジイにいつまで頼っているんだよって気もしないでもないが。
まあ、ウォレン爺にしても暇つぶしとボケ予防も兼ねて楽しんでいるっぽい雰囲気があるからなぁ。
お互いの利害が一致しているってところだから是正も難しいんだろう。
こちらとしては非公式にヤバい情報を伝える相手が学院長以外にいるのも悪くは無いから、これからも頑張ってくれ。
嫌な書類仕事とかは『引退した人間が関わってはいけないだろう』と避け、楽しい悪者追求だけする快適な老後生活?




