1088 星暦558年 紺の月 16日 裏社会からの依頼(11)(第三者視点)
第三騎士団(情報部)団長さん視点の話です
偉そうなおっさんは偉かったw
>>>サイド ダグロイド・シャーストン団長(第三騎士団)
「ウィル・ダントールがウォレン殿もしくは騎士団の上層部と会って話がしたいと来ております。
何やらウォレン殿の生死にかかわる話があるとか」
アファル王国で複合毒の使用が疑われる案件が増えてきた問題に関してウォレン爺に相談していたら、団長室にノックがあり若い士官が姿を現した。
「ほおう?
ウィルが自分から騎士団に姿を現すなんて珍しいが、儂の生死にかかわるとはね。
是非とも話を聞かせて貰おうじゃないか」
楽し気ににやりと笑いながらウォレン爺が立ち上がった。
「生死にかかわる、ね。
誰かが暗殺ギルドに依頼を出したのか?」
古くから存在する裏社会の組織と国はある程度の協力関係にはある。
なので血筋だけで高い地位にいるボンクラはまだしも、本当に国の運営にとって重要な役割を担っている人物への暗殺依頼や陥れるような依頼が裏社会に入った時はそれとなくこちら側に警告が寄せられることが多い。
評判が良かったのにあっさり暗殺された人物の屋敷や金の動きを死後調べてみたら、色々と後ろ暗い事をやっていた事が判明する度に我々の情報収集能力の至らなさにガックリくるが。
・・・そう言えば、以前第三騎士団内の腐った果実が特級魔術師であるハートネット師を嵌めようとした時もウィル・ダントール経由で裏から解決する動きがあったな。
どうやらあの下町出身の魔術師は、中々便利な連絡手段として裏社会に利用されているらしい。
軍部や国との繋がりは金で一時的に雇われる以上の事を頑として拒んでいるようだが、裏社会の方がまだマシな扱いなのだろうか?
「まあ、話を聞けば分かるじゃろ。
ウィルはどこに居るんじゃ?」
ウォレン爺が士官に尋ねる。
「第三会議室が空いていたのでそこで待って貰っています」
付いてくるか迷ったような感じで後ろから続いてきた士官に、会議室の扉の外で待つように指示して部屋に入る。
遅番なのでない限りもう帰宅するところだったのかも知れないが、何か急ぐ指令があった際に伝令に使える士官がいると手間が省ける。
悪いが、今日は残業して貰おう。
「お主がこちらに自分から来るなんぞ、珍しいの。
何があった?」
ウォレン爺が椅子に座りながら軽い感じで部屋に居た若者に声を掛ける。
どうやらこちらを紹介するつもりはないらしい。
まあ、以前副団長がウィル・ダントールを是非とも勧誘したいと強く主張していたからな。
絶対に嫌がると言い聞かせて説得していたが、俺が同じことをするのを心配しているのかも知れない。
「お久しぶり。
実は、知り合い経由でとある組織から最近東大陸から進出してきた違法な暗殺業者の駆逐に協力する様に依頼されてね。
ある程度情報を集めたら国の当局に渡してお偉いさんを逮捕してもらえば良いって話だったんだが・・・その活動のトップっぽい貴族の家で伯爵と家令の話を耳に傾けていたら爺さんを殺そうって話題になった」
軽く手を上げてウォレン爺に挨拶したウィル・ダントールが肩を竦めながらあっさり応じた。
ふうん??
東大陸から進出してきた暗殺業者ね。
先ほど話していた複合毒の話と関係しそうだが・・・それを逮捕させるために暗殺ギルドが我々の為に情報を集めろと依頼したのか?
我々ではちゃんと新参者を駆逐できないと思われたようだが・・・まあ、確かにどの貴族が関与しているかなんぞまだ全然分かっていなかったのだから、明らかに暗殺ギルドの方が一歩も二歩も先を歩んでいるようだ。
自分達で新参者を殺さずに、此方に逮捕させようとしているというのは意外だが。
そんなことを考えていたら、ウィル・ダントールが何やら魔具を取り出し、起動させた。
『ウォレン・ガズラートを殺して欲しいという依頼が何人からか来ている。
丁度いいからそれらの契約を履行することにしよう』
微妙に聞き覚えのある声が暗殺依頼を取り持つ話をしている。
ああ、ゼルパッグ伯爵と言えば副団長が最近の案件で色々と名前が出て来ていると言っていた男か。
年末のパーティの際にそれとなく傍によって話を聞いてみたが、良くいる無能な貴族っぽい感じだったのだが・・・いくら何でも密輸から薬の違法販売から人身売買まで、ここ1年ぐらいの間に続けさまに検挙されていった違法組織の全てに手を出していたと考えるのは偶然としてもありすぎだと思っていた。
どうやら誰かに濡れ衣を着せられていた訳ではないらしい。
余程運が悪いのか、手を大きく広げ過ぎているのか。
暗殺業にまで手を出そうとするぐらいなのだ。
違法行為に広く手を広げているということなのだろうな。
暗殺の取りまとめまでやるような人間だ。情報漏洩しそうな人間を躊躇なく殺すからこそ、あれだけ色々やっていても今までは伯爵まで証拠が繋がらなかったのだろう。
自分にとって邪魔な人間を殺させるだけならまだしも、依頼を受けて他人の殺しまでやらせるようになったのが運命の分かれ目と言う奴だったようだが。
さて。
誰も逃がさぬように一網打尽にするのはどうやるのが一番かな?
極端に有能では無くても情け容赦なく情報漏洩の恐れがある人間を殺しまくれば機密保持がしやすい・・・




