1077 星暦558年 紺の月 12日 例年の時期と言えるかも(14)
「お土産です」
シャルロがパストン島の港町で数日の滞在の間に大量に買い集めて試食しまくり、選りすぐった焼き菓子を学院長に差し出した。
マジでシャルロって甘い物に関しては胃袋が底なしなんだよなぁ。
もしかして、甘味を果てしなく楽しめる様に蒼流が消化を早めてあげてるとかなのかね。
太りもしないんだから、腹の中で文字通り消し去っているのかも?
「おお、ありがとう。
どうだったかい?」
学院長が俺たちに聞いてきた。
今日はついでに本当に夏に行く気があるか確認する為(と行くんだったら詳細をある程度詰めるため)、3人で来ている。
俺は時折顔を出しているが、3人揃って学院長に会うのは久しぶりだな。
「大分と開発が進んできていましたね。
暮らしやすいとでも噂が流れているのか東大陸の方から密航する浮浪児が増えてきていたので、彼らを社会に組み入れる様にちょっと仕組みを作るのに協力してきました」
アレクが答える。
「・・・そう言えば、俺って魔術学院に入る時にアファル王国人ですって誓いを立てたんでしたっけ?
イマイチ記憶にないけど」
ふと気になって学院長に尋ねた。
魔術学院に入る為の誓約となったら誓約魔術になるだろうから、誓約を立てたのを忘れていてうっかり破ると痛い目に合う。
別に他国の為にアファル王国を害するつもりは無いが、国に裏切られたり搾取されそうになったら逃げるつもりではあるから、どの程度の制約が掛かっているのかは知っておきたい。
「いや、見た目が典型的なアファル王国人だったし、盗賊ギルドに確認したら元の孤児院やその前の家族の事も辿れたからな。
アファル王国人であるのは分かっていたから国籍に関する誓約は求めなかった」
学院長が教えてくれた。
マジか!!
盗賊ギルドって俺の孤児院の事も知っていたのか?!
魔術学院に裏社会の人間を入れることになるんだから学院長がそれなりに俺の事を調べるのは分かるが、なんだって盗賊ギルドが態々下っ端のガキの情報を集めたのか、理解が出来んぞ。
「え、盗賊ギルドって構成員の過去を調べるんですか。
なんかこう、裏社会って過去の事は調べないし聞かないって印象だったんですけど」
シャルロがちょっと驚いたように言った。
「ああ、ウィルは魔力が視えるし訓練なしで多少なりとも干渉出来る才能があっただろう?
便利だったから兄弟がいるならそちらも勧誘する価値があるか、調べてみたらしい」
学院長が笑いながら言った。
「魔術師の才能って別に遺伝しないですよね?」
俺の親たちは魔術師じゃなかったし。
というか、近親で魔術師が居たら下町で暮らさないだろうし、死んだら子供がすぐにスラムの傍の孤児院に放り込まれるなんてことも無いだろう。
多分。
まあ、研究者肌の魔術師だったら自分の親や兄弟が死んだって知らせが来てもそれに気づくのに半年ぐらい掛かっても不思議はないタイプも居ることは居るが、俺の親戚にそんなタイプが居るとは信じがたい。
「確実ではないが、魔術師の家族の方が魔力が大きい確率は多少なりとも高いようだな。
だから兄弟がいたら魔術師の才能を覚醒する可能性もゼロではない。
ウィルの場合は一人っ子だったらしいが」
学院長が肩を竦めながら教えてくれた。
考えてみたら、親たちに兄弟・姉妹は居なかったのかね?
別に居たところで下町暮らしだったら毎日の生活が苦しすぎてもう一人ガキを引き取れる余裕が無かった可能性は高いが。
イマイチ従兄弟とか叔父・叔母に会った記憶は無い。
「考えてみたら親族が全然居ないとは考えにくいから、どこかの地方から出てきた夫婦だったんですかね?
探してみるか?」
アレクがこちらを向いて聞いてきた。
「必要ないだろ。
多少の血の繋がりがあったところで共有する記憶が全くない相手なんぞ、赤の他人だ。
下手に連絡を取って『魔術師なら金があるだろう、資金援助してくれ』なんて金蔓扱いされるのもごめんだし」
一応正式に王都へ住居を移したのだったら何処かに申請書類がある可能性は高いが、探すのも、下町の役人にちゃんと仕事をさせるために賄賂を贈るも面倒だ。
「ダントールという姓でウィルにどことなく似たような顔の魔術師の卵が今後見いだされたら、一応連絡するよ」
笑いながら学院長が言った。
・・・人の顔って、血が繋がっていたら似て見えるもんかね?
アレクもシャルロも、親族がうじゃうじゃいる集まりに呼ばれて行ってもそれ程似ていると実感したことは無いんだが。
シャルロの親族なんかはのほほんとした雰囲気が似ているが。でも、顔の造形にそれ程共通点があるとは思わなかったぞ。
まあ、魔術学院の事務のおばちゃん達だったら任せておけば何とかしてくれるだろう。
人の顔を覚えるのが苦手なせいか、家族が似てるわね〜って言うのって全然分からない・・・
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カクヨムさんで別に書いている短めに終わる予定(希望!)な話の最新話を久しぶりにアップしました。
良かったら読んでみて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678




