1069 星暦558年 紺の月 6日 例年の時期と言えるかも(6)
「困り事や改善希望?
そうねぇ、島での生活が落ち着いてきたから、もっと気軽に本国の友人や家族と手紙のやり取りをしたいって言う声が多い程度かしら?」
昼食をご馳走になりながら、キャリーナに何か問題点や希望することが無いか聞いたらこんな返事が返ってきた。
「転移箱を使えば良いのでは?」
アレクがちょっと首を傾げて尋ねる。
あれも大分と普及したらしいからなぁ。
とは言え、この島からアファル王国まで飛ばすのにはそれなりに魔力が必要じゃないか?
ジルダスの領事館までだったら大したことは無いだろうが。
流石に領事館で本国への私的な手紙の転送をしてくれるとは思えない。
・・・それとも、してくれるか?
「考えてみたら、ジルダスの領事館って毎日転移門で本国に誰かが戻って書類や物の配送みたいなことをしているのか?
しているんだったらジルダスの領事館に転移箱で手紙を送って、領事館から王都の方へ持って帰って配達屋に纏めて渡す様に手配できないかな?」
アファル王国における手紙の配達は、以前は商業ギルドが請け負っていた。
だが事業関連で利用価値の高い情報や、国の情報でも商売に影響するような部門から出された手紙がこっそり開封されて中を盗み見られたと言う苦情が時折出てきていた上、それらの手紙の内容を利用した抜け駆けが偶然では片付けられない頻度で起きた為、とうとう何年か前に国が商業ギルドが郵送事業を取り上げて独立した公社として立ち上げた。
まあ、転移箱の発明で大分と機密情報の郵送自体が減ったし、可変式転移箱の普及で更に減るだろうけど。
だからどこの街にも転移門の横に郵送屋があり街の中での配送を請け負っているし、転移門が無いような小さな村だったら村長宅なり集会所に転移箱があり、そこに住民が自分で取りに行く仕組みになっている。
転移門も転移箱も距離に比例して魔力消費量が上がるので、確かにパストン島から本国へ転移箱で手紙を送ろうと思ったらそれなりな魔力が必要になる。
「・・・そうだな。
国外のアファル王国人の為に領事館で手紙を預けて本国へ他の書類と一緒に持って行って郵送屋に渡す仕組みを作ろうという話は以前から出てはいたんだ。
この際それを実現化してもらい、ついでにパストン島からの手紙も本国へ直送ではなくジルダスの領事館経由で送れるように出来ないか、交渉してみるよ!!」
ジャレットが力強く頷いて言った。
「今迄国への報告書とかはどうやって送ってたの?」
シャルロがちょっと首を傾げながら尋ねた。
「国への報告は普通に島の税収から経費として魔石を使って直接送っていた。
まあ、高くつくんで緊急事態以外では3月に一回しか送っていないが」
ジャレットが肩を竦めながら言った。
へぇぇ、その程度で良いんだ?
考えてみたら貴族の領地の代官ってどの程度の頻度で領主に報告書を送っているんか知らないけど。
ジャレットって代官と領主の間位な感じだから、3月に一回って言うのは妥当なところなのかな?
かなりの裁量権はあるらしいし。
予算だけはある程度以上に大きいと本国から了解を得なきゃいけないみたいだが。
・・・水牛って『ある程度以上大きい』のか。
そう考えると裁量権も大したことは無い?
「そう言えば、新型の転移箱は送り先を複数設置できるようになったんだけど、知っているか?
去年ここに来た後に新しい魔術回路の素材を開発したついでにそっちも造り上げて売り出したんだが」
ふと、此方にそれがあるのか気になって聞いてみた。
考えてみたら、転移箱が本国用しか無いんだったらどうせもう一個領事館とのやり取り用のを買う必要があるんだから、その際に可変式転移箱を買えばもっと色々と使えるようになる。
まあ、ジャレットぐらい責任(と報酬)がある立場だったら個人的にも本国の家族とかとやり取りをする転移箱を既に買っている可能性があるが。
ガンガン転移箱を増やすよりは、次に買う際に可変式のを買って魔石だけペアで購入していく方が場所も取らなくて良いだろう。
「え?!
何か噂を聞いたことはあったが、知り合いで持っている人間が誰もいないからまだ売り出されていないんだと思っていた」
ジャレットが言った。
ええ???
「販売数を絞っているのか??」
アレクに尋ねる。
「いや??
でもまあ、魔術院がまず自分の所で魔術師に連絡を取るようの転移箱を可変式にする!!!って大量注文したから、もしかしたらそう言う一斉連絡の必要がある各ギルドが大量注文してそれに追われて一般販売が遅れているのかも?」
アレクがちょっと首を傾げながら言った。
「一つぐらい、手に入るでしょ?
ジャレットってどのくらいの頻度で王都に戻ってるの?
この領事館経由の手紙配達の話を実行させるのに、王都に来て頭の固い役人たちを説得しに来たりしない?」
シャルロが肉のお代わりに手を伸ばしながら尋ねた。
「そうだな・・・。
確かに通信機や転移箱の手紙でやり取りするよりは、一度行って話を付けた方が良いかも知れないなぁ。
とは言え、先ずは領事館の方の根回しが必要だが」
ジャレットが言った。
「領事館の方でも転移門でちゃちゃっと行けるから、そっちに行く日を教えてくれたら一つか二つだったら持って行くぞ?
まあ、正規の購入料金は貰うが」
アレクが提案した。
俺たちの試作品を渡しても良いんだが、正規品を渡しておく方が後での修理とか他の転移箱との互換性とかで問題が起きにくいだろう。
やっぱ売り出し元だとどれだけ販売予約が積みあがっていても、一つか二つは手に入るんだなぁ。
うむ。
販売元強し。
まあだから美顔用魔具なんかに関しては一つか二つ都合してくれって貴族からアレクの母親なんかが圧迫『お願い』されて大変なことになっているんだろうが。
手作りだから普及に時間が掛かるw




