1050 星暦558年 紫の月 11日 音にも色々あり(13)
盗み聞き防止用魔具を大量に騎士団の食堂で使うことの問題点を指摘したら、ウォレン爺がにやりと笑った。
「丁度いい。
2人以上座った場合に、会話を始める前に魔具の起動スイッチを押し忘れたら罰金と言うことにしたら魔具の購入費用の足しになる。
第三騎士団でまずやって、それで他の騎士団の分を順次揃えていこう」
起動ボタンを押し忘れるのを見越して、それを捕まえて罰金をふんだくって他の騎士団の食堂での魔具配置予算の足しにするつもりらしい。
第三騎士団の連中が忘れなくなるころには第一か第二騎士団に設置して、そっちの連中がおぼえたころには残りの騎士団に設置し、ってところか。
ついでに会議室とかの設置や王宮の方の設置にも順次揃えるのに予算を節約しつつ購入できそうなのかも?
まあ、どの程度の罰金をふんだくるのか知らんが。
金額を大きくしたら直ぐに忘れなくなりそうだし、小さかったら中々資金が貯まらないだろう。
毟り取れる金額を最大にするバランスの見極めが難しそうだ。
貴族が多い第一騎士団とその他の階級の人間が多い第二・第三騎士団じゃあ罰金額に対する感覚も違うだろうし。
そう考えると、第三騎士団の次はまず第二騎士団で罰金額は変えずに設置し、第一騎士団の時には『良い加減覚えただろう』とか『第一騎士団の方が重要な事案を扱っているから』って事で金額を上げて、王宮の食堂用の設置予算を稼ぐと良いかも?
「順次やっていくのだったら製造が間に合うかも知れませんが・・・まだあれは試作品なんですよ?
使い勝手とか使用上の問題とかを指摘して貰ってしっかり問題点を潰していきたいのですが」
アレクが試作品を大量納品することの問題点を指摘する。
「第三騎士団の分だけまず納品して、問題があった部分を修正しつつ罰金を溜めていけば次の騎士団の食堂へ設置する頃には正規の製品に完成しているんじゃないかの?
試作品という事でちょっと割引して貰えるならこちらも導入しやすい」
ウォレン爺が指摘する。
まあ、時間をかけてやっていけばそれなりに問題点を潰せるだろうし、罰金で金を貯めていく形にするなら一気に大量にって事にはならないで済むだろう。
第三騎士団だったら魔術回路の最終形の特許申請が終わる前に迂闊に試作品の情報を漏らしたりもしないだろうし。
一応途中形態の魔術回路でも登録しておけばどこかで試作品を見た奴が横取り申請をしようとしても通らない様になるのだが、どちらが先だったかとか本当に俺たちの魔術回路を横取りしたのかとかの調査が必要になるので、横取りされると申請手続きが面倒になるんだよな。
だから出来ることならば試作品はうっかり情報を漏らすような安易な考えの人間が居る所には出したくない。
まあ、楽団の連中みたいに試作品に触れる人間全員に誓約契約を結ばせるって言うのも手なんだが、国の騎士団に誓約契約を結ばせるのは国防的にヤバい条項を忍び込ませていないかって一字一句細かく確認されるので面倒だし高くつくんで避けたい。
「では、取り敢えずシャカシャカ音の試作品を第三騎士団の食堂用に提供と言うことで・・・幾つ必要ですか?
機密保持の契約書や費用や修理・改善に関しての取り決めもあるのでちょっとシェフィート商会と相談する必要がありますが、大雑把なそちらの想定を教えてください」
溜め息を吐きつつ、アレクがメモ帳を取り出してウォレン爺に尋ねた。
まだシェフィート商会との本契約もしてないんだけどなぁ。
まあ、軍部やもしかしたら王宮に大量納品(しかも順次なので細く長い契約になるかも?)が出来そうな魔具なのだ。
それなりにシェフィート商会もこちらに実入の良い契約にしてくれるだろう。
ある意味、既に客を見つけているんだからシェフィート商会を通す必要すらないと言えば無いんだが、開発が終えた後の製造や販売や修理とかの話し合いは面倒だからな。
ああいうのは全部シェフィート商会に投げる方が双方にとって良いだろう。
「ちなみに、会議室用のに関しては何か改善点とか要望とか出たかな?」
シャルロがウォレン爺に尋ねる。
まあ、会議室用のはシェフィート商会の方で色々と出て来たからウォレン爺からのは大したコメントが無くても良いんだが。
とは言え、機密保持のプロたちから見て、何か問題があるのか知っておくのは悪くない。
コメントから頂いたアイディアを流用させて貰いましたw




