1044 星暦558年 紫の月 1日 音にも色々あり(7)
「思ったんだけどさ、音を反転させる結界を二重に作ってその結界の間で音を何度も反転させるようにしたら中も外も静かにならないか?」
翌日、シェイラといた時に思いついた考えの一つを二人に提案してみた。
ちなみに蚊帳か何か薄い透ける生地にでも防音の術を付与して枠を使って赤ちゃんの周りに広げる考えは、残念ながら布のように折れ曲がる対象に防音術を付与しても直ぐに術が破損してしまうので駄目だった。
固くて薄い紙なら折れ曲げなければ何とかなるかも知れないが、赤ちゃんであろうとそのベッドとかを囲うサイズの紙を折り曲げないで持ち歩くのは大変だ。
紙のサイズを小さくして何枚も継ぎ足す形にすると、付与しなければならない防音術の数が多くなるので面倒だし値段もあがるから実用性がイマイチだという結論に達したのだ。
折れなければ良いので、ちょっとした組み立て式の脚立を紙で作って術で強化するのは一応成功した。こちらはシェイラに渡してある。
うっかり紙を折ったら強化の術も解けてしまうので、強化した紙が折れるとか紙その物が劣化するとか魔力が抜けるとか、どのくらい使えるかはこれから試してくれと試作品扱いで使用報告待ちだ。
小さな脚立だったらちょっとした地面に座る代わりの椅子や足置き代わりにも使えるので、破損するまではそれなりに使い勝手が良いんじゃないかな?
そこそこ使い勝手が良くて長持ちしそうだったらこれも売り出してもいいかも知れない。
こっちは魔術回路ではなく単に折り畳み式の脚立の形に加工した紙に術を掛けただけなので、売り出すとしたら若手魔術師にでも付与の方は依頼する必要があるし、特許申請が出来るか微妙なところではあるが。
「二重な結界ねぇ。
確かに現時点ではあの音を反転させる結界一つだと外への防音はまだしも中にいる人間への不快度が高すぎて使えないから、ありかも知れないな。
まずは試作してみるか」
アレクが頷いた。
「二重にして繰り返し反転させるとどんな感じになるんだろ?
ちょっと楽しみ」
シャルロが笑いながら言う。
「反転して反転してって繰り返すことになるから、ちょっと弱めなんで良いんじゃないか?
特定の音で共鳴とかしないのを確認しておいた方が良いだろうし」
二回反転したら元の音を大きくする効果が生じるかも知れないのだ。
タイミングがずれるから変に大きくしたりはしないと思いたいが・・・反転の方向もちょっと斜めにでもした方がいいかも?
◆◆◆◆
ぷっぷらぴ~。
試作品の前でオモチャのトランペット(多分)を適当に鳴らす。
工房の中だというのに、ちょっと微妙に街中を歩いているような雑音が聞こえる感じがするのが不思議だが、それでも今迄の試作品のようなはっきりとした変な木霊ではないせいかそれ程気にならない。
「そっちはどうだ~?!」
次に大声を出して尋ね、適当に思うがままに話し続ける。
考えてみたら赤ちゃんを借りてきて泣かせてみる必要もあるかも?
態と泣かせるのもちょっと可哀想だが・・・基本的に赤ちゃんや子供ってこっちのやって欲しい様に動かないからなぁ。
子供がいる家に行って泣くまで待つのはちょっと嫌だ。
まあ、オモチャを取り上げると怒って泣くことが多いらしいから、オモチャで遊ばせてあげる振りをして取り上げ、それで短時間的に泣いてもらうか?
「もう良いよ~!」
シャルロが手を振りながら言ったので色々と思いつくがままに大声で話していたのを止め、二人の所に行く。
そう言えば、シャルロの声も何か聞こえにくかったな。
二重な結界で音を反転させるから片方向ではなく両方向に音の伝達を阻害する効果があるのかな?
がっちり防音って程ではないが。
「どうだった?」
「まあまあ、かな?
ちゃんとした防音じゃあないけど、至近距離で鳴らしている楽器モドキの音が煩くないレベルまで落ちるんだから、部屋の中で展開したら外には殆ど洩れなくなって音楽や劇の練習には使えそうだ。
盗聴防止には微妙な感じだが・・・考えてみたら、この反転効果をもっと強くしたら会話を聞き取れなくなるかも?」
アレクが応える。
「まずは部屋とかステージとかを囲む形で展開させてどうなるか実験して、次にテーブルを囲む形で反転効果を高めたのがどうなるかもやってみようか」
シャルロが提案する。
「そうだな」
取り敢えず工房で試してみて、それなりに何とかなりそうだったらどこかの劇場の練習で試してみるか。
ちょっと方向転換。
どうしても魔術での音の反転が電子的な器具と同じぐらい早いと思えなくって・・・




