1039 星暦558年 赤の月 28日 音にも色々あり(2)
片側から通る音量を一定以下に抑える魔術回路は出力を抑えることでまあそれなりな感じになった。
大声で怒鳴ったらそれなりに聞こえる程度なので、問題があって悲鳴を上げていたら外を通っていた人間に聞こえなくはない。
まあ、遠くまで音が響かないのでそばを歩いている人間がいないと助けて貰えないのだが・・・これは防音機能が良い部屋に居たら同じことなので、許容範囲内だと思う。
でも盗み聞き防止が中々上手くいかない。
会話をしている側も音が一部聞こえなくなったり、外に普通に聞こえちゃったり、完全に音が消えたりと言った感じに微妙に期待しているのと違う結果になっちまうんだよなぁ。
なので別の魔術回路で何か参考になるものが無いかと再度魔術院に来ていたら、丁度アンディに会ったので昼食を食べながらそちらの事に関してだけ軽く話した。
アンディが俺たちの開発している魔具の情報を漏らすとは思わないが、個室とは言え魔術院に近い食事処で話していたらどこかに洩れる可能性だってゼロではないからさらっと大雑把な概要だけだけどね。
「へぇぇ、盗み聞き防止用の魔具ねぇ。
まあ、上手くいくなら色々と需要はあるだろうけど、完全に音を消すタイプの魔具は悪事に使いやすいから販売制限がかかるぞ?」
興味深げに俺たちの話を聞いていたアンディが問題点を指摘してきた。
俺たち程度の話ですら盗み聞きに警戒している事を考えると、盗み聞きが出来なくなる魔具を持ち歩けるようになったら確かに色々と便利かもだよなぁ。
ちょっとした相談事だって、絶対に盗み聞きされないような場所を探して誰かと二人きりになって相談するのって相手の年齢や性別によっては難しいのだ。
人前でも確実に盗み聞きされないで話し合える魔具に対する需要は大きいだろう。
なんだってそう言うのが売り出されていないのか、不思議だな。
と言うか、売り出されていないなら魔術回路に丁度いい物はないのかも?
それはさておき。
「販売制限??
音を消すって普通に防音結界だってそれが出来るだろ?」
アンディの言葉に疑問を覚えて聞き返す。
「魔術師は何をやっちゃいけないかちゃんと教わっているし、迂闊に悪事に関与したら魔術院から怖~い制裁が待っているからよっぽど金になる上に確実に見つからない保証でもない限り、そうそう悪事に協力はしないだろ?
元々金を稼げる職業なんだ。
なのに魔力を封じられて二度とそれで稼げなくなるような危険を犯すだけの金額となったら買収額だって凄い金額になるから、ある意味金の動きだけで人目を引く。
だが魔具だったら誰が作ったかなんてそうそう分からないし、それを誰が使ったかなんて更に分からない。
つまり足がつきにくいんだ」
アンディが指摘した。
なる程。
簡単に使えるのは魔術師の防音結界だが、使った後の制裁の及びやすさが全然違うのか。
魔術師の結界だったら事件が起きて直ぐだったら魔術院が調べたら誰の魔力かも分かる可能性が高いし。
怪しまれて真偽の術を掛けられたら言い抜けられなくなるのだから、関与を疑われた場合は国から逃げる必要があり、下手をすると数年か数十年は帰ってこれなくなる可能性がある。
その点、魔具を使った悪事だったら犯人もそれを提供した職人も、そう簡単には特定できない。
しかもバレて罰として腕を潰されたって造る知識だったら誰かに売れるし。
そう考えると魔具の方が厳しく規制が掛かっても当然か。
「ふむ。
勝手に手軽に修正したら出力を上げて音を完全に消せたりしない様に工夫をしておく必要があるって事だな。
まあ、盗み聞きだったら全部の音を消すんじゃなくて一部消せばいいと思ってそう言う魔術回路を探しているんだけどね」
そう。
盗み聞きのは全部の音を消すつもりは最初からないから出力云々は気にしなくて良いんだよね。
「ちなみに、盗み聞き防止の魔具も喜ばれるが、販売制限が掛からない程度で音を割合的に小さく出来るような魔具が出来たら劇団とか音楽団とかが練習するのに是非欲しいって言われるぞ?
今でもパトロンが付いている団はちょくちょく新人の魔術師を雇って防音結界を張らせて練習しているからな」
アンディが指摘した。
へぇぇ?
「そう言うのってホールで練習するんじゃないのか?
ああいうところは外に音が漏れないようになっているだろ?」
外に立っていたら音を聞き放題だったらチケットを買う人間が激減するだろうから、ホールの防音設備はそれなりに良い筈。
「劇場とか音楽ホールは一つの団が使うだけじゃなくてあちこちが日替わりとかで使うことが多いだろ?
一つの団が使っているにしても違う場面を各々練習する時もあるし。
だから練習したい人間の数と音を出しまくっても構わない場所の数とが全然釣り合ってないんだよ」
アンディが教えてくれた。
確かにそれはそうだろうな。
全部の楽器を一緒に曲の最初から最後まで通して練習するのは皆の腕がそれなりに揃ってからじゃないと効率は悪そうだ。
となったら楽器ごとに練習する必要があり、その際に他の楽器の練習音が隣からガンガン流れてきていたら集中しにくいだろう。
こっちは盗み聞き防止機能は必要ないから、片側からだけの防音結界用の魔術回路を確実に販売制限に引っ掛からない様に細工して、さっさと売り出しても良いかも?
販売制限に引っ掛からない様にするのも実は大変そうw
確実に機能を上げられない様にするのって意外と難しいんじゃないですかね〜




