1024 星暦558年 赤の月 4日 棚以外にも使えるよね?(21)
「よし!
やっぱ絹と色物は諦めて、貸し出し店も止めよう!」
何通りかの試作品で洗ってみた絹服を見比べて、俺は結論を述べた。
「だね~。
これだと綺麗になるけど、実質美顔用魔具と同じだから流用されちゃいそうだし」
シャルロが頷く。
そう。
絹は魔具で『洗う』のには向いていないのだ。
最初に一度試作機に絹の古着を放り込んでみたら、ブラシでボロボロになってしまった。
まあ、考えてみたら絹の服を泥やウンチだらけでガビガビにする人間はいないだろうと云う事で、ブラシで引き延ばす部分を変更してコートのブラッシングに使うような厚手のちょっとボコボコした布みたいので擦って広げる形にしてみた。
これで物理的にブラシで生地がボロボロになるのは無くなった。
が。
洗濯用石鹸がやはり駄目だったのだ。
一度試してみたら・・・見事に生地がボロボロな感じに劣化してしまった。
皺を伸ばして干そうと引っ張ったらびりっと破けてぎょっとしたぞ。
まあ、パディン夫人曰く絹の服はデリケートなんだから、皺を伸ばすのに男の力でぐいっと引っ張るのは濡れていなくてもダメだと窘められたが。
なので次に、シャルロが家の洗濯をやっているメイドから絹を洗うのに使えるという石鹸を入手して使ってみたら・・・一応大丈夫だったが、他の服の汚れが余り落ちなかった。
というか、絹の服は土埃や泥で汚れることは殆ど無いだろうが、日常的に来ている作業服なんかだったらそう言う重量級の汚れが付くことは想定しなければならず、そうなるとまずブラシではなくボコボコな布で擦るだけではこびり付いた泥跳ねとかが落ちない。
つまり。
絹服は石鹸を変えるだけでなくブラシまで変えねば俺たちの洗濯用魔具で洗うことは出来ず、そこまで手間をかける物を独身の男どもが適当に使う洗濯用魔具として貸し出してもちゃんと説明通りに使わない人間が続出して、苦情の嵐を招く行為だろう。
ちなみに、洗剤も使わずに手でコート用のブラシみたいので絹服を形を整え、ハンガーに吊るして美顔用魔具の結界の中に置いておくのが一番綺麗に出来る洗濯方法だった。
色物の服にしても、美顔用魔具を使えばそれ程色落ちせずに綺麗にできた。
まあ、物によっては染料が汚れ扱いになったのか少し色が褪せたのがあったが。それは一番安物だった服だから、あれは多分着たら軽く汗ばんだだけで下着や肌に色がつく劣悪品だった可能性が高い。
超安物ではない現実的なちゃんとしたお洒落着系は『ぬるま湯で洗う』という機能を使うのではなく、美顔用魔具の魔術回路を使って洗う方が綺麗になるのだ。
だったら最初から絹用の洗濯にはあっちを使った方が現実的だ。
一々絹や色物の時だけブラシと洗剤とを入れ替えて洗うよりも、最初から美顔用魔具を使う方が早いし、実際の所の製造費用もそれ程変わらない。
が。
美顔用魔具は買いたがる人が製造能力を大幅に超えている。だから購入希望者を減らし、工房の残業代とやる気を賄うためにかなり強気な値段設定で売り出しているのだ。つまり、実際の製造費で売る訳にはいかないんだよねぇ。
なのでもう、諦めようという話になる。
「まあ、我々としても空滑機の貸し出し事業だったら運営してもそれなりに面白いし人に楽しんでもらいたいという思いがあるが、考えてみたら洗濯用魔具の貸し出しサービスをして下町の独身男性のデートや日常生活への助けをしたいという想いが強い訳でもないからな。
商会やギルドや宿屋に売るのをシェフィート商会に任せれば良いか」
ぱたんと色々と書き込んでいたメモ帳を閉じながらアレクも合意した。
「そうなんだよなぁ。
考えてみたら別に貸し出しサービスなんぞやらなくても良いだろ?
赤ちゃんのオムツ用だと購入者が少ないかもなんて欲張ったことを考えたせいでちょっと迷走しちまった」
下手に色々洗えるように機能を増やして高くしちゃったら、赤ちゃんのオムツ洗いに使いたい母親たちが買えなくなるかもだし。
まあ、現実的な話として現時点での魔具を赤ちゃんを持つ母親たちが買えるかは知らないが。
「取り敢えず出産祝いに皆でお金を出し合って買ったらどうだと勧める話をそれとなく広げてみる様にしたらどうかと母に言っておくよ。
オムツの洗濯は重労働だから、欲しがる女性は多いとは思う」
アレクが言った。
・・・つうか、オムツの洗濯は父親の仕事分担だってことにしたら良いんじゃね?
きっと酒場での飲み代を暫く我慢してさっさと買うと思うぞ。
オムツ洗いとかオシッコで重いオムツのゴミ出しを男の責任とすれば、少しは赤ちゃんの世話の大変さが伝わる・・・かも?




