1020 星暦558年 赤の月 1日 棚以外にも使えるよね?(17)
いつもの朝のお茶と相談の場で、今回の休息日の成果(?)の報告だ。
「そう言えば、宿屋で客が自分で洗濯するのに使えるよう洗濯用魔具を宿屋とかに売りつけるなり貸し付けるなりしたらどうだってシェイラが提案したんで試しにシェイラの宿屋に置かせてもらったら、意外と好評だったぞ」
実際に試してみようということで態々発掘現場からシェイラの宿まで持って帰ったのだ。
転移門から発掘現場まで苦労して持って行ったのに、また持って帰って来た俺を見て街門の番人が『要らないって言われたのか、可哀想に』と言いたげな哀れみを込めた目で見られたのが中々痛かった。
でも、おかみさんに話してちょっと泊っている客に試して貰ったら、中々好評だったので試した甲斐はあると思う。
シェイラも着替えている最中のプライバシー確保がイマイチ微妙な現場で着替えるよりも、宿に帰ってから着替える方が気楽だからそのまま宿に置いておいて欲しいと言われたのでそうしている。
発掘チーム全体の洗濯費と魔石使用量の情報が欲しかったんだけどね。
まあ、第一の目的はシェイラに都合よく使ってもらうことだし、ツァレスとか他の考古学者や見習いがシェイラの着替えに出くわすなんてことがあるのも嫌なので、宿に置くのも悪くはない。
それに普通の作業服の洗濯に関しては王都にだって服が汚れる連中は多いんだ。
そっちで洗濯費と魔石使用量の確認をすればいいだろう。
まあ、そんな連中が洗濯女を使うかと言ったら微妙かもだが。
・・・そう考えると、幾ら予算がないと常にピーピー言っている連中とは言え、発掘チームの奴らはちゃんと高等教育を受けるぐらいの家に生まれた人間なのだ。
そう言う連中が服を汚すような作業をすること自体が少ないから、あいつらは客層としては特殊過ぎて参考にならないかも?
「なるほど。
客が洗濯女に頼むか自分でささっと魔具を使って洗うかを選べるのか。
魔石料金に少し水増しした値段設定で数を熟せば魔具代をそれでカバーできる可能性は高いかもだな」
アレクがぽんと手を叩いた。
「そっか、魔術学院にでも洗濯用に購入しないかって話を持ち掛けようかと思っていたけど、それよりも個人が使う事を考えた方がいいのかもね。
独身の人が多い地域に、これを貸し出す店舗でも開いてみるのもありかも?」
シャルロが提案した。
確かに、街のおかみさん連中に売り込むよりも先に、地方から出てきたり、家族の人数の関係で実家から追い出された独身の連中相手に貸し出しサービスというのをやってみるのも良いか。
「店舗にして、大量に使ってみたら想定外な問題が起きたなんてことになると面倒だから、まずはシェフィート商会の幾つかの大きな店舗で従業員相手に割安で使わせてみよう。
費用計算もその方が分かりやすいし、店舗の人間に服を清潔に保たせるのにも役に立つ」
アレクがにやりと笑いながら言った。
おや?
従業員の制服の洗濯状態に不満があったのかね?
「従業員だけじゃなくて行商から帰った連中にも使える様にしたらどうだ?
あっちの方が汚れが沁みついてて、例え奥さんがいたとしても洗濯を嫌がられそうじゃないか?」
行商の最中では余程大きな街でもない限り、一晩泊まったら次の村や町へ向かうことが多い。
野営だったら泊る時間すら最低限に抑えるし。
そうなると服の洗濯は最小限に抑え、汚れた服はまとめて持って帰ってくることになるだろう。
・・・通り雨とかで濡れた後に汚れて、そのままぐちゃぐちゃに丸めて袋に入れておいたようなカビが生えた服でも綺麗になるのか、確認する必要があるかもだな。
「ああ~・・・。
確かに喜ばれるかもだが、行商帰りの服の汚れはある意味特殊だからなぁ。
少なくとも洗剤に関しては普通の洗濯石鹸では無理だろう。
それ用の石鹸を別に用意しておくと良いかも知れないな」
アレクが微妙な顔をして言った。
アレクも魔術学院に入る前は何度か行商に行ったことがあると聞いたが、特殊な洗剤が必要な程酷いんか??
・・・酷いんだろうなぁ。
「そこら辺はシェフィート商会の方で色々と試してみたら?
何だったらそう言うのを今まで頼んでいた洗濯女の人たちに魔具を動かしたり洗いあがりを確認して貰ったりするのにお金を払って雇っても良いし。
洗濯女の人達だって突然仕事が無くなっちゃったら困るでしょ?洗濯に関してはプロだろうからそう言う人を洗濯用魔具の店舗に常駐して貰って相談に乗る感じにしても良いかもね」
シャルロがクッキーに手を伸ばしながら言った。
まあ、洗濯女の仕事が無くなる程俺たちの魔具が売れるとは思わないが、縄張りみたいのがあるとしたら不本意な地域への引っ越しとかが必要になるかもだからな。
そう考えたら、洗濯用魔具を導入して困る洗濯女を雇うのは悪くないかも。
無くなる仕事分の人数を全部雇える訳では無いでしょうが。
まあ、新しい道具の開発と共に徐々に他の地域や業界へ移動していくのは世の流れと言う事で。




