ヴァレリス
「で?アンタは何でここにいるわけ?」
俺の命が大ピンチ。返答次第では首と体がおさらばすることを覚悟した方がいいだろう。
それにしても家を間違えたのか?似たような家が多いとはいえ、地図を見ながら歩いてきたから間違いないと思うんだが...
「学園長がここが俺の家だって...ほら、地図にマークがあるだろ?」
そう言って俺は地図を見せる。今ならはっきりといえるが、ここは間違いなく指示された場所だ。
「本当ね...ていうか、私もここに住めって指示されたんだけど?」
ダブルブッキングか...?学園長がミスったのか?
そう考えて用意を進めていると、地図の裏に何か書いてあることに気が付いた。
「伝えると面倒くさそうなので書き記しておくですよ。王からの命令でしてね...王女殿下はアナタの所で匿ってもらうですよ。」
…やられたッ!!!!!
あのクソ学園長、今度会ったら確実にぶっ飛ば...
そこまで考えたところで、学園長のあの威圧感を思い出す。
いや、多分無理だな。邪な考えを持つのはよくないことだよね。俺ってピュアだから。
「どうやら、ここに二人で住めってことみたいだな...。」
「...理由が理由だから怒れないわね...。」
…気まずい。とても気まずい。
相手としても同じ気持ちだろう。だってさっきまでバチバチにやりあってた相手と一緒に住むことになったんだから。
ここはあれだ。小粋なトークで話を逸らそう。
「医務室に運ばれたはずだったけど...大丈夫だったのか?」
そう、彼女は今医務室にいるはずなのだ。
「あぁ、それ?体には大したダメージもなかったしすぐに解放されたわよ。」
確かに俺はあまり攻撃を加えていないからな。
…正確には加えられなかったが正解だけど...。
「ただ一瞬斬られたヴェルディアとのつながりを確かめるだけだったから早く解放されたってわけ。」
なるほどな...そうだ。一つ気になっていたことがあったんだった。
「お前のあの力...結局何だったんだ?」
そう、あの最後に見せた力、アレは命を削るほどの力を持っていた。
「それはこっちのセリフでもあるんだけど...命を救ってもらったわけだし、そこらへんには触れないであげるわ。」
「といっても、私にもよくわからないのよ。言い方は悪いけど...『芽』なんかに負けてたまるかって思いが湧いてきて...そしたらヴェルディアが暴走しちゃって...」
記憶の中で見た暴走した人も「感情の昂り」によって覚醒していた。もしかしたら覚醒と暴走は紙一重なのかもしれない...俺ももしかしたら危なかったのか?
「いいや、聞けただけで満足だ。ありがとう。どちらにしろ今日から同じ家に住む者同士、仲良くしよう。」
「えぇ、こっちこそよろしくね。」
とりあえず和解…した、のか? まあ、少なくとも剣を抜かれる心配は減っただろう。
「それから、これから私のことはヴァレリスって呼んで。同じ家に住んでるんだし、いつまでもお前とかでも嫌だし、私もリオールって呼ぶから。」
許可も得たことだし、今度からはヴァレリスと呼ぶことにしよう。
廊下を歩いて自分の部屋へ向かう途中、ふと振り返ると彼女も同じように廊下の奥へ歩いていた。部屋は別々だが、同じ屋根の下というのは妙に落ち着かない。
「風呂の時間は先に取ったほうがいいか?」
「私は夜派だから好きにすれば?」
…こういう生活感のあるやり取り、慣れるまで時間がかかりそうだ。
部屋のドアを開けると、さっきはそれほど気にしなかったが明らかに急ごしらえで用意された家具が目に入る。荷物を置いてベッドに腰を下ろすと、廊下から「そっちの部屋、壁薄いわよ!」という声が飛んできた。
どうやら声量にも気を付けないといけないらしい。
それにしても...今日は大変な一日だった。
タル坊との決闘、学園長との会話、ヴァレリスとの出会い...『ヒガンバナ』の使用。
どれも大変だったが、どれもこれも過去の俺だったら出来なかった、貴重な体験だ。
ヴァレリスとの出会いは、師匠との出会いと同じくらい俺を変える可能性を感じる。
これから仲良くしていこう...そう考えたとき、隣の部屋から声が。
「また勝負しましょう!リオールとの勝負、楽しかったわ!」
…やっぱりコイツはバトルジャンキーだ。
そう考えながら、俺は眠りにつくのだった