舞台は終わらない
轟音が舞台を揺さぶり、視界は絶え間ない閃光と影に覆われていた。
鍵盤を叩くたびに空間が裂け、無数の槍が生まれ、地形さえねじ曲がる。
理を掴もうとしても、次の瞬間にはその理が裏切る。
俺たちはただ、即興のように動き続けるしかなかった。
「リオール、左だ!」
オーウェンの声に振り返ると、破片の雨が迫っていた。
木刀を振り抜き、いくつかを逸らす。だが腕に痺れが残り、力が抜けそうになる。
オーウェンがすかさず拳を叩き込み、残りを砕いた。
返り血のように飛んだ光片が彼の肩を裂いたが、それでも立ち続けていた。
「立ち止まったら終わりだ! 走れ!」
「……言われなくても!」
ヴァレリスの炎剣が閃く。
火流が音の槍と激突し、轟音と共に爆ぜた。
逆巻く炎に吹き飛ばされながらも、彼女は必死に剣を握り直す。
「こんな即興、燃やし尽くしてやる!」
その炎の隙間を縫うように、オスカーの転移が走った。
ナイフが空を裂き、彼の体を飛ばす。
次の瞬間、着地した床が崩れ、彼は片膝をつく。
「は、はは……心臓に悪いですねぇ……。でも、まだ……!」
震える息を吐きながらも、再びナイフを構える姿は、舞台から逃げる気など微塵も見せていない。
「観客よ、喝采せよ! 我ら役者は幕を恐れぬ!」
アレクセイの声が響く。
分身が次々と現れ、音の嵐を食い止める。
現れるたびに砕かれていく分身は薄命だが、その犠牲が数秒の猶予を与える。
本体の彼は、芝居がかった笑顔の裏で汗を滴らせ、必死に舞台を演じ続けていた。
それでも嵐は止まらない。
俺の木刀は、あくまで場当たりで理を繋ぐ道具でしかなかった。
ワルツのような「拍」は見えない。ただ即興の激流。
耐え続けることが、今の俺たちにできるすべてだった。
その時――
「道を開けるぞォ!」
オルテアが叫んだ。
血で濡れた腕をものともせず、彼女は弓を引き絞る。
矢は光の線となり、虚空を切り裂いて嵐を押し退けた。
雨のような連射が一瞬の突破口を生む。
「オルテア、無茶だ!」
俺が声を張るが、彼女は歯を剥いて笑った。
「黙ってろォ!」
彼女の背は、どんな嵐よりも頼もしく見えた。
だが矢を放つごとに彼女の体は傾いてゆく。
矢の残光が収束した瞬間、轟音が舞台を砕いた。
オルテアの足元に亀裂が走り、裂け目が口を開く。
黒い奔流が吹き上がり、彼女を呑み込もうとする。
「……ッ!」
最後に振り返った顔は、仲間を見送る笑み。
「あとは任せたぞォ!、野郎ども!」
その言葉とともに、彼女の姿は光と影の奔流に消えた。
衝撃の余韻が残る中、銃声が重なった。
三発。迷いのない狙撃。
ザミエルが淡々と歪みを撃ち抜き、奔流を逸らしている。
「……道はまだある」
冷静な声が逆に胸を締め付けた。
「ザミエル、もう無理だ!」
オーウェンが叫ぶが、彼は首を横に振る。
「退場は……俺が引き受けよう」
低く呟き、最後にもう一度だけ銃声を響かせた。
その直後、足元が崩れ、影に呑まれる。
消え際の横顔は、どこか安堵しているようにさえ見えた。
「ザミエル!」
オーウェンの拳が奔流を砕く。
だが砕いた破片が逆流し、彼の腕を裂いた。
痛みに呻きながらも、彼は踏みとどまる。
「ふざけるな……ここで止まるか!」
二人が退場した舞台は、一層の狂気を帯びた。
鍵盤の轟きは強まり、喝采はさらに激しくなる。
光と闇と無音の穴が同時に襲い、休む暇など一拍たりとも存在しない。
残されたのは俺、ヴァレリス、オーウェン、オスカー、アレクセイ、ヴァイン、ペイル。
数は減った。
けれど――
安否は分からないが、退場した四人の背中を無駄にはできない。
木刀を握り直し、歯を食いしばる。
狂詩曲は終わった。
だが、俺たちの舞台はまだ終わらない。




