一拍、二拍、三拍。
俺は木刀を握りしめ、仲間に声を張り上げた。
「三拍子だ! 一拍目で構え、二拍目で放ち、三拍目で戻す! リズムに従え!」
皆が一斉に俺を見る。だがその直後、ソリストの指が鍵盤を打ち、また波が押し寄せた。
一拍目――床が隆起し、押し出されるように衝撃が走る。
二拍目――壁が迫り、通路を塞ぐ。
三拍目――天井から光の雨が降り注ぐ。
華やかで、だが狂気じみた三連打。観客席から見れば優雅な演舞に違いない。だが俺たちにとっては一瞬遅れれば死に直結する暴力だった。
「なるほどな……!」
オーウェンが拳を構える。
一拍目、腰を沈め、拳を固める。
二拍目、床を叩くように拳を振り抜く。
三拍目、腕を自然に下ろし、体勢を整える。
その拳は隆起した床を粉砕し、迫ってきた壁の影さえ砕いた。
「悪くない! やっぱこういうのは殴り合いの延長だ!」
彼は血が滲む拳を振り、笑みを浮かべた。
「……馬鹿げてるけど……やってみる!」
ヴァレリスが炎剣を掲げる。
一拍目、炎を刀身に宿す。
二拍目、斬撃と共に炎を放つ。
三拍目、余韻を収め、炎を引き戻す。
炎の奔流は舞台に沿い、光の雨を焼き払った。
「ふぅ……本当に通った……! リオール、アンタの言う通り!」
彼女の顔に僅かな安堵が浮かぶ。
「……なるほどな」
オスカーは短く息を吐き、ナイフを構える。
一拍目、狙いを定め、呼吸を整える。
二拍目、ナイフを投げ放つ。
三拍目、その刃の先に転移する。
ナイフは壁をかすめ、彼は光の雨を回避して背後に現れる。
「久々にスムーズですねぇ?このまま行きましょうか?」
アレクセイは観客に向けるように大仰な動作でカードを散らした。
「おぉ! 一拍目に仕込み、二拍目で演じ、三拍目で余韻! これぞ舞台に生きる役者の務め!」
一拍目でカードを放り、二拍目で分身が生まれ、三拍目で影のように消える。
分身は光の雨を受け止め、床の揺れを分散させた。
「ご覧あれ! 観客は喝采を惜しまぬはず!」
声は勇ましいが、その眼差しには焦りが潜んでいた。
俺は木刀を握り、呼吸を合わせた。
一拍目、構え。
二拍目、斬撃。
三拍目、体勢を戻す。
動きは無駄なく収まり、音の刃を斬り裂く。
胸に確信が宿った。
「……やっぱり……三拍子で刻めば、抗える……!」
だが全員が順応できるわけではなかった。
イゾルデが斧を振り下ろす。
一拍目に構え、
二拍目で斬る。
だが三拍目を待たず、もう一度力任せに振り下ろそうとした。
「この程度ッ……押し切ってやる!」
その瞬間、舞台が大きく傾き、彼女はバランスを崩す。
斧ごと身体を飲み込むように床が裂け――。
「う、嘘でしょ……っ!」
彼女の姿は闇に呑まれた。
「イゾルデ!」
ヴァレリスが悲鳴を上げるが、返答はない。
アラエルが羽を広げる。
一拍目、展開。
二拍目、仲間を庇うように羽を飛ばす。
三拍目、収束――そのはずだった。
だが旋律が歪み、偽りの四拍目が差し込まれた。
羽ばたきが乱れ、彼女の身体は逆に天井へと吸い上げられる。
「待って……まだ皆を守れる……!」
必死に羽を広げるが、光に呑まれ、白い羽根だけを残して消えた。
「アラエル!」
ヴァインが鎖を伸ばす。だが掴むものはなく、空を切るだけだった。
二人が消えた舞台に、重苦しい沈黙が落ちた。
「ッ……」
ヴァレリスが剣を震わせる。
「やつの法則に従わなきゃ……舞台に残れない……」
俺は木刀を握りしめ、仲間を見渡す。
「そうだ。従いきれなければ退場だ……残酷すぎる……」
アレクセイが観客に語りかけるように声を張り上げた。
「舞台とは非情! 観客が望むは、完璧な舞踏のみ! 一瞬の狂いは退場を意味する!」
芝居がかった声。だがその目は、悔しさと恐怖に揺れていた。
ソリストは変わらず、影の姿で鍵盤を叩き続ける。
音色は美しく、そして非情に冷たかった。