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曼珠葬送

『ヒガンバナ』の使用。

それは――死者の記憶を借りるということ。

本来、踏み込んではならない領域だ。


「……すまない。この戦いが終わったら、必ず見舞いに行くから。」


胸の奥で名もなき英雄たちに追悼の念を捧げ、その名を呼ぶ。


「来い……『ヒガンバナ』!」


木刀を手放した瞬間、指先に冷たくも脈打つ感触が宿る。

赤黒い刀身が闇の底からせり上がるように形を成し、俺の掌に収まった。

同時に頬を熱いものが伝い落ちる――血の涙だ。鉄の匂いが鼻腔を満たし、髪がじわりと赤へと染まっていく。


握るたび、刀は生き物のように脈動し、手首に鼓動を送り込んでくる。

それと同時に、記憶が奔流のように流れ込む。


ヴェルディアが暴走した者との戦い。どう止めるか、どう断つか。

脳裏に鮮烈な映像が焼き付く。


目の前の炎龍が迫る。視界の色が赤黒く反転する。


「…………曼珠葬送。」


一閃。


赤黒い軌跡が闇を裂き、炎龍を無数の花弁のように刻み散らす。

その一撃は、彼女とヴェルディアを結ぶ縁を断ち切るには、あまりにも十分すぎた。


炎がしゅるりと消え、熱気だけが周囲に残る。


彼女は大きく息を吐き、力なく膝をついた。

あれだけの力を扱ったのだ。無理もない。

最後の力は見事だった……不本意とはいえ、『ヒガンバナ』を使うことになるとは思わなかった。


「ありがとう...そして、安らかな眠りを。」


刀が消える。俺も元に戻ってゆく。


さて、今一番の問題は...


「実に見事だったよリオール君...それはそれとして、説明はしてもらうですよ?」


完全に存在を失念していた学園長の存在だった。


とりあえず彼女を医務室へと運んだ後...


「いろいろ言いたいことはあるんですけど...」


俺は学園長室へと呼び出されていた。終わった。


「黙っててすみませんでした!」


「アナタのその力...そういうことでしたか...あのヒトならしそうですねぇ...。」

そういうこと?あのヒト?全く意味が分からないが、次の言葉を待つしかない。


「はぁ、今回は王女殿下を救ったという功績がありますし、それで相殺してあげますですよ...まだ隠してる力はないですよね?」


よし...!!!とりあえず危機は去ったようだ。

隠してる力か...そういえば一つ気になることが。


「隠してるってわけではなくて、単純にわからないから使えてないだけなのか...俺のヴェルディアの力ってなんなんですか?」


そう。俺のヴェルディアはただの木刀。能力がないのがおかしいのだ。


「アナタのそれは...ワタシにもよくわからないですね。ただの木刀のヴェルディアなんてみたことないですよ。」


「そうですか...学園長、今回は申し訳ありませんでした。」


「いえ、今回王女殿下の頼みとは言え、アナタに無理をさせたですよ。今日はゆっくり休んで、明日からの授業に備えるですよ。」


そう言うと、学園長はブツブツ独り言を言い始めた。

学園長、とても寛大だ。本当にありがたい。


それにしても今日はいろいろあって疲れた...早く休まないと...

そういえば、俺の家ってどこなんだ?


「すみません、俺はどこに帰ればいいんですか?」


「そういえば伝え忘れていましたですよ。この場所に行くといいですよ。」


地図をさしながら教えてくれる。

本当に画一的で迷いそうな道だ...無事にたどり着けるかな...


「本当にありがとうございました。ではまた。」


「えぇ、アナタも気を付けるですよ。」


バタン。ドアが閉まり、残されたのは学園長ただ一人となる。


「なぜ『アレ』が...『計画』は...完遂していなかったということですか?」


残された学園長のつぶやきを聞く者は、誰もいなかった。


「ここが俺の家かぁ~!」


「立派な家じゃねぇか!俺と坊主2人いても住めそうなくらいだ!」


師匠は俺の中にいるから実質常時同居だろ...そんなことを考えたが、言うと長くなりそうなので飲み込む。


「安心しろって!俺はあくまでお前の下にある。お前が見られたくない時は出さなきゃいいんだよ!」


…それならいいんだが。


とても広い家だ。他の家と比べても大きい。

きっと学園長が気を利かせてくれたんだろう。


中もだいぶ広い。なぜか寝室が2つあるのだけが気になるが、それ以外には特に問題のない、とても広い家だ。


もう一つの寝室はクローゼットにでもしようか...掃除をしながら考えているとき、


「王女である私が、こんな場所に住むことになるなんて...一体何を考えているのかしら...」


聞いたことがある声がするが、多分幻聴だろう。力を使い続けた反動で幻聴がしてきた。

俺の力、こういう副作用があったのか。

というわけでその声を無視して掃除を続ける。


「アイツ...次会ったら感謝しなきゃいけないわね...」


「「何でアンタ(お前)がここにいるんだよ(のよ)!?」」


さっき切った炎龍の主がそこにいた。

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