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炎と木刀

2時間後といっても暇だったので、すぐに演習場へ行き練習を行うことにした。

一通り訓練メニューを終えたところで、ちょうど時間になった。


「最初っからへばるんじゃないわよ?」


おや、いつの間にか王女殿下がいたらしい。時間だし当然だった...


すぐに跪き、


「王女殿下。気づかず申し訳ありません。これは私が行っている基本的なメニューですので、勝負に支障は出ないと思われます。」


「それならいいんだけど...あとさっきから気になってたんだけど、その話し方気持ち悪いからやめてくれる?勝負をする相手とは対等に接したいの。」


気持ち悪い...

ふと目を向けると、視界の端で爆笑してるオッサンがいる。

結構ショックだったが、自分を取り繕わなくていいのはとても楽だ。


「そうか...ならこっちの話し方で行かせてもらうよ。」


「そっちの方が似合ってるわよ。次同じ話し方したらぶっ飛ばすから。」


しかし...多分この人以外の王族にこの話し方で言ったら不敬罪で死刑だと思う。

そんなことをしているうちに、学園長が入口から入ってきたのが見えた。


「2人とももう来ているようですね。では今回の戦いのルールを説明するですよ。今回はヴェルディアは使用OK、相手に致命傷を与えるのはナシ。相手が降参したら勝ちで行かせてもらうですよ。」


今回はヴェルディアを使ってもいいのか...とはいっても、師匠の『ヒガンバナ』はあまり使用したくない。というのも、アレは...死者を冒涜するようであまり使いたくないのだ。


というわけで俺の木刀を使う。しかし俺の木刀は今のところただの木刀。つまりこっちだけヴェルディアの使用が禁止というわけだ。


相手のヴェルディアの力もわからない今、俺にできることは...

あれこれ考えたが、実物を見ないことにははじまらない。


「アンタのプライド、へし折ってやるんだから!」


「元からプライドなんてないんだが...」


でも、自信が少しついてきていることは確かだ。気を付けた方がいいだろう。


自分のヴェルディアを取り出して準備する。相手のヴェルディアは...炎のような色のヴェルディアだ。


「では、両者構えて、始め!」


学園長がそう口にした途端、速攻で王女が自身のヴェルディアを開放する。


「焼け死になさい!『グロリオサ』!」


彼女が大剣を振るうと、無数の炎の花弁が俺に向かって飛んでくる。


「いや、殺したらまずいでしょ...。」


俺はそれらを難なく避ける。速いが、まだ見切れないほどではない。

それらを躱しながら、俺は距離を詰める。

元の距離の半分...残り25m程になったところで、彼女の姿が見えなくなる。

どこへ行った?ヴェルディアの能力か?

…上かッ!


「今のを避けるなんて、なかなかやるじゃない?」


上から攻撃を仕掛けてきた彼女を躱したところで、声をかけて来た。


「そっちこそ。俺が攻撃をする隙が感じられないな。一体どういうカラクリで?」


「教えるわけない...でしょッ!」


急速に近づいてくる。恐ろしく速い彼女の動き。受け流すので精一杯だ。

何かのカラクリがあるはずなんだ...

ふと地面を見ると、少し焦げたような跡がある。直線状に伸びているそれは、明らかに花弁を飛ばした軌道ではない。


となると...


「炎を噴き出して加速...が答えかッ!」


「よくわかったじゃない!これに気づいたのはアンタで10人目よ!」


10人目か、商品の一つでも欲しいところだな。

……それにしても、タル坊とは格が違うな。

初戦のあいつはただ突っ込んでくるだけで、動きも比べ物にならないくらい遅かった。

だから俺にも勝てたんだ。

だが今目の前にいる王女は違う。速すぎて、攻撃の意図を読む暇すらない。

圧倒的な機動力――これが本物の強敵ってやつか。


圧倒的な機動力の種がわかったところで、俺にはどうすることもできないものだった。

とにかくチャンスを探るしかない。


しかし、チャンスはいくら待っても訪れなかった。30分ほど防御を続けているが、機動力に陰りが見えないどころか、むしろテンションが高まって速くなっている気すらする。


「ほらほらァ!どうしたのよ!避けて受け流すだけじゃ攻撃は当たらないわよ!?」


「厄介だな...。」


しかし、こんなに強力なヴェルディアだ。何か弱点があるはず...そう、具体的には...


「ッッ...!?不発!?」


超過発熱(オーバーヒート)とかな。


「短時間に炎を使い続けたんだろうな。そんなに強大な力...ただで扱えるとは思えない。代償がある。そう踏んで長引かせていたが...正解だったようだな。」


すぐさま攻撃へと転じる。


「卑怯よ!ヴェルディア使いなら正々堂々と戦いなさい!」


「しかし、俺もああするしかなかった。あの機動力の前じゃ、俺も手も足も出なかったからな。」


本心を口にする。実際あのままでは機動力の差で負けていたかもしれない。

明らかに戦況が俺有利へと変わったのを感じる。彼女はヴェルディアに頼りすぎていたのだろう。ステップがうまく踏めていないようだ。


その点俺はよかったのかもしれない。ヴェルディアがなんの能力もなかったおかげで...俺は剣に集中することが出来たんだから。


「ウソ...王族である私が...負ける...?」


さっきまでの元気はどこへやら。彼女は明らかに狼狽している。

このまま押し切ろう...そんな時、俺は少しの違和感を感じ、とっさに後ろへと飛びのいた。

彼女の目の色が変わったのが、遠目からでもわかる。

彼女の周りの空気が揺らぎ始める。

人が扱うにはあまりにも不釣り合いのサイズの大剣が、さらに赤く、発熱する。



「そんなの...認めてたまるか!!」


彼女のヴェルディアから全てを燃やし尽くさんするように炎が立ち上る。

しかし、彼女の体力はもう限界を迎えている。その状態でこんな力を扱ってしまえば彼女は命を失うだろう。


このままでは彼女は死ぬ。能力の暴走での『死』を俺は記憶の中で経験したことがある。


彼女を叩く?いや、あの状態の彼女の傍に近寄ることはまだあの力がわからない限り俺ごと命を失う恐れがある。

ヴェルディアの投擲?ダメだ。止められる。

どうすれば...どうすればいいんだ?

…答えは決まっているじゃないか。俺には、一つだけ止めることが出来る手段が存在する。

それは...


「自分にかけた制約をすぐ破ることになるなんて...俺はとんだ畜生だな。」


『ヒガンバナ』しかなかった。

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