表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/122

決着、そして...

黒棘の檻はなお広間を覆い、石床を突き破っては耳を裂く音を響かせ続けていた。

空気は重く淀み、呼吸すらままならない。

俺とヴァレリスは背を合わせ、互いの荒い息を感じながら立ち尽くしていた。


「……まだやれるな。」

「当然でしょ!」


棘が迫るたび、俺は木刀を振り抜き、弾き飛ばす。

その隙を逃さず、ヴァレリスが炎剣を薙ぐ。

炎と木刀の動きが噛み合った瞬間だけ、黒薔薇の結界は揺らぎ、わずかな光が差し込む。


「はあッ!」

木刀がフィオナの鞭剣を弾き飛ばす。

彼女の冷たい視線が、初めて一瞬だけ揺らいだ。


「……っ!」

その隙を見逃さず、ヴァレリスの炎が轟音を立てて走り、アイビーの鎖刃を焼き切った。


「ぐっ……!」

フィオナが呻き声を漏らす。

普段なら決して崩れない冷徹な表情が、炎の熱に歪んだ。


俺は踏み込み、木刀を振り下ろした。

「これで……!」

衝撃が広間を揺らし、フィオナの身体が床に叩きつけられる。


「……忠義……最後まで……ヴィクター様に……」

その声はかすれ、やがて炎と煙に掻き消された。

冷たい石床に、彼女の体は静かに沈んでいった。


「フィオナ!」

ヴィクターの声が広間を震わせた。

初めて、その微笑が崩れた。瞳には怒りが燃え上がり、口元が歪む。


「小さき者たちが……私の夢を阻むか!」


ツヴァイハンダーを振り上げると、黒薔薇の棘が嵐のように荒れ狂った。

壁を裂き、天井を砕き、世界そのものが黒茨に飲まれていくかのようだった。


「リオール!」

「分かってる!」


俺は木刀で棘の奔流を叩き落とす。

骨を軋ませるほどの衝撃。腕に痺れが走り、視界が揺れる。

だが、ヴァレリスの炎がその隙をなぞり、黒茨を焼き払った。


「はああッ!」

二人の動きが一つに重なり、結界の一部が崩れる。

「まだだッ!」

俺は咆哮し、一歩を踏み込んだ。


ヴィクターの大剣と俺の木刀がぶつかり合う。

火花が散り、轟音が広間を揺らした。

「貴様ごときが……!」

「無力でも、抗う!」


痺れる腕を押さえ込み、歯を食いしばる。

次の瞬間、ヴァレリスの炎剣が横合いから走った。

灼熱の光がヴィクターを包み込み、白髪を焼き、外套を焦がす。


「ぐあああああッ!」

怒号と共に黒薔薇が暴れ狂う。

だが俺は怯まず、木刀を振り抜いた。


「これで……終わりだッ!」

炎と共に放った一撃が、老紳士の胸を打ち抜いた。


黒棘が枯れ落ち、結界が音を立てて崩壊していく。

大剣を取り落としたヴィクターは、膝を折り、それでもなお上品な声音を残した。


「……犠牲……なくして……進化は……」


その瞳が閉じられ、広間に静寂が訪れた。

血と焦げの臭気が満ちる中、俺とヴァレリスの荒い息だけが響いていた。


そのとき――


「リオール! ヴァレリス!」

通路から声が響いた。


広間に駆け込んできたのは、カイルだった。

汗に濡れた額、荒い息。必死に走ってきたその姿が、俺たちを見た瞬間に凍りついた。


「……これは……」


視線が床に倒れたヴィクターとフィオナの亡骸を映し、次に俺とヴァレリスの武器へと移る。

血に濡れた木刀と炎剣。


「嘘だろ……そんなはずない……!」

カイルの声は震え、目が揺らいでいた。

「ヴィクターさんとフィオナさんは……僕を支えてくれた人たちなんだ! 僕に剣を教えてくれて、居場所を与えてくれた……その人たちを……どうして……!」


「違う、カイル!」

ヴァレリスが声を上げる。

「彼らは孤児を犠牲にしていた。放っておけば、もっと多くの命が――」


「黙れ!!」

カイルの叫びが広間を震わせた。


その瞳は怒りと悲しみで濡れ、真っ直ぐに俺を射抜く。

「リオール……お前が……お前たちが……!」

声は震えながらも、刃より鋭かった。


「僕は……許さない!!」


剣を抜き放ち、血走った目で一歩踏み込む。

まるで迷いをすべて切り捨てたかのような動きだった。


「カイル……!」

俺が名を呼ぶより早く、彼は剣を振りかぶり、一直線に俺へと切りかかってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ