呼び出し
憂鬱だ。何故って?
「よろしくどうぞ...。早速ですが、アナタ...何を隠しているですか?」
この対面するなり痛いところをついてくる男のせいだ。
学園長、カレイドフローラ・ヴェルディアン。その素性は謎に包まれている。
ある人は100年前にも同じ学園長だったといい、またある人は500年前の文献に彼の名前と肖像画があったとも。謎多き人物だ。
不思議なしゃべり方をする彼から俺はさっそく尋問を受けているのだ。
「何も隠してはいませんよ?正々堂々、彼の決闘に応じたまでです。」
「そんなわけないですよ。アナタ、クラス分け試験での自分の成果、覚えているですか?」
やっぱりそうなるよなぁ...
だって明らかに実力がかけ離れてるからなぁ、誰だって疑う。俺も疑う。
「決闘の結果には満足しているですよ。この世は勝つか負けるか。それだけですよ。」
「それは何よりで...アハハ...」
「ただ...『不正』は許せないですよ。不正が行われたのであれば、それで得た勝利は屑も同然ですよ。わかりますですか?」
やばい、威圧感がすごい。自分の実力はまだこの人には及ばない。それを感じさせるだけの「圧」が感じられる。
「不正は...していません。これは間違いなく、俺の力で得た勝利です。」
正確には師匠のおかげなのだが...多分それを言ったらややこしいことになる。
その瞬間、彼の目が光った...気がした。眼光ってこういうことか...とても怖い。
冷や汗が体の表面を伝った、その時、
「不正はないようですね。この力は、間違いなくアナタが手に入れた力のようですよ。」
…「手に入れた力」ってことは、俺が何かしらの補助は受けたことは勘づかれたか。ていうか俺でも気づくわ。3時間で実力を滅茶苦茶上げたやつなんて絶対なんかやったに決まってる。
よかったよかった...ていうか、わざわざこれを言うために呼んだのか?
そんな俺の本心を見透かしたかのように、
「では、本題に入りますですよ。アナタの決闘の結果を知って、少々ややこしい方からアナタと戦いたいという方がいるのですよ」
戦い...今日は決闘日和だなぁ...
「はぁ...で、その少々ややこしい方というのは?」
「そう来ると思って、呼んでいますですよ。そろそろ来る頃だと思うですが...」
そう学園長が口にしたその瞬間、学園長室のドアが勢いよく開いた。ドアが壊れないかどうかがとても心配になる。
「アンタね!リオールってのは!」
好戦的な人が来た。
特徴はそのポニーテールにした赤い髪。とても綺麗な印象を受けるが、内面がバトルジャンキーだ。
「あの...学園長、こちらの方は?」
「あぁ、紹介がまだでした。彼女はアウリオン・ルクレティア・ヴァレリス。同じクラスの子がボコボコにされたことを聞きつけて、アナタに興味を示したようですよ。」
アウリオン...ってもしかして...いいや俺の勘違いかもしれない。絶対勘違いだろう。勘違いに違いない。勘違い3段活用をしてしまった。
「アウリオン...って...王族の方だったりします...?」
「だったりしますもなにも、アウリオンを性に冠する一族はこの国の王族だけですよ。」
...やはりか。
「そうよ!本来なら話しかけることすらも許されないような身分のアンタが、私と戦えるのよ!光栄に思いなさい!」
とてもめんどくさいことになった。俺はどうやらこういう定めらしい。
自分ではどうすればよいのかも全く分からないので、学園長にひっそりと話しかける。
「学園長...どうすればいいんですか...」
「そうはいってもですねぇ、受けるしかないと思いますですよ。断るのは自由ですが...多分いつまでも付きまとってくるのを覚悟しておいた方がいいですよ。」
受けるしかないか...それに、これはチャンスかもしれない。そう考えることにしよう。
「ちょっと!何こそこそ話してんのよ!今すぐ!戦いなさいよ!」
…一ついいアイデアを思いついた。
とりあえず1礼をしてから、自分が思ったことを多少綺麗にして話す。
「すみません、ヴァレリス王女殿下だとは知らず、無礼を働いてしまい、誠に申し訳ありません。」
チラッ...相手の顔を見る。大丈夫そうだ。
「しかし...僭越ながら、お願いがございます。」
怪訝そうな顔をされた。ここからが勝負だ。
「私がこの勝負に勝てる確率はかなり低いです。しかし、この勝負で敗北してしまうと、王女殿下がとても強かったのにもかかわらず、学校での評判が最低まで落ちてしまいます。具体的に言うと、不正野郎などと呼ばれてしまうでしょうね。」
「それが何よ?」
食いついた。
「その『不正野郎』に勝ったあなたは名声を得られるでしょうか?答えは否。あなたの評判は上がるどころか、むしろ下がる可能性があります。」
正確には不正野郎を叩きのめしたとして上がるかもしれないんだけど...嘘を言っておこう。
「ですので...勝負の勝ち負けにかかわらず、私の実力は本物だという噂を学園に流してほしい。これが条件です。」
「よくわかんないけど...そうすればアンタと戦えるのね!?」
ヨシ。なんか学園長が冷ややかな目で見てきてるけど気にしない。
「えぇ、それを受けてくださるのならその勝負、お受けしたいと思います。」
頑張れ俺、ほぼ勝ったとはいえ油断はできない...相手から返事があるまでは...。
「いいわよ!でもアンタ、負けてもゴタゴタ言うんじゃないわよ!」
これでよし。
実際これは大事だ。
俺の不名誉な称号がずっと付きまとわれるのは非常に困るからな...
「それでは2時間後、先ほどリオール君が決闘を行った場所...第2演習場に集まってくださいですよ。」
ふう...今日は大変な日になりそうだ...。