監禁生活
ここも懐かしくなってしまった。
少し安堵し、心に少しの余裕ができたところで、肩を叩かれる感覚を覚えた。
振り返ると、あの半裸の男がいた。
「はっはっは!少し驚かせようと思ってな!どうだ、驚いたか!」
「驚くも何も、アンタはあの場所にしか居られないはずじゃぁ...」
「お前、俺の遺志はあの球根の中にあったんだぞ?それが坊主のものになった今、お前にしか見えない幻覚として出てくることだって出来るってこった!」
...なるほど。大体わかったが、一蓮托生になってしまったという事だろう。
「まあそれは置いておいて...坊主、お前には今からあの人形と戦ってもらう。」
「は?一体どういう...」
そう俺が言うや否や、部屋にあった人形が動き出す。
そのいかにも古くなったガラクタのような人形が...急に殴りかかってきたのだ。
「おいおいおいおいおいおいおいおい!!!!!!」
辛うじて避ける。だがまだ人形の攻撃は止まらない。
俺のヴェルディアを出し、応戦してみるが、力では向こうの方が上のようだ。
そうだ、ヴェルディアといえば...
「こっちのヴェルディアはまだ使ってなかったよな...」
俺の右手の蕾、まだ花開いていないそれ。それは俺が10000回異常の輪廻の果てに手に入れたものであり...新たな力。
使わないで死ぬなら使わなければ損だ。
蕾になったんなら...来い、ヒガンバナ!
そう強く念じると、刀のようなヴェルディアが召喚された。その波紋は美しく、少し赤みを帯びた刀身は見る者を魅了する。召喚されたそれを手に取った途端、俺は不思議な感覚を覚える。
あれ?アイツの動きがわかるようになった...それに、どういう風に体を動かせばいいのかがわかる...?
それからは一方的な展開だった。
相手の攻撃をものともしない俺、ダメージが蓄積されていく人形。
そのうち、人形は木っ端みじんになった。
戦闘が終わったかと思うと、刀が消える。
その瞬間、あの世界で何回も体験した...「死」が俺を満たしていく。
記憶の持ち主の無念が伝わってくるようだ。2度と体験することがないと思っていた感覚が襲ってくる。
そして、1回の「死」が終わると...
「お疲れさん、俺のヴェルディアもうまく使えてたじゃねぇか。」
急に戦わせておいてひどい口ぶりである。この人でなければぶっ飛ばしていたところだった。
「お前のヴェルディア...これはひょっとして...。」
「あぁ、坊主の想像通りだ。俺のヴェルディアは死者の『記憶』から、最適な動きを選び取ることが出来る。」
「だがよ...このヴェルディアを使うってことは...死者を愚弄するってことだ。なるべく使わなくていいようにしろ。」
確かに、あの力は使っていて気持ちのいいものではない。
「そう言われたって...どうすればいいんだ?」
「簡単だ。体を強くすりゃいい。あの試練を乗り越えたお前だ。やすやすと乗り越えるだろうよ。」
やらなきゃここから出してくれないくせに。何言ってんだか。
「水は用意してある。ここであの扉を破壊できるようになるまで体を鍛えろ。」
扉を開けるくらい、簡単に...
「言っておくが、あの扉は相当な力がないと壊せない。俺は開けねぇから、お前自身の力で頑張れ。」
…かなり厄介な状況になったな。
それからというもの、俺はトレーニングに励み続けた。
暗い地下室、孤独、極限状況...普通なら心が狂ってしまうような環境で、俺はひたすら剣を振り続けた。
壁に反響する自分の息遣いだけが聞こえる。
痛みが体中に広がるたび、理性が揺らぎ、思考が断片的に砕ける。手首の腱が軋み、肩が裂けそうでも、止まることは許されない。
時間の概念は消え、光も音も失われ、ただ振るという行為だけが現実のすべてになった。
幻覚のように剣が増え、敵が無数に現れ、しかし全て自分自身の分身だとわかる。
恐怖、怒り、悲しみ、悔恨、嫉妬――あらゆる感情が渦巻き、俺の心を引き裂こうとする。
それでも剣を振る手は止まらず、痛みと恐怖の波を押し返すように、身体が覚醒していくのを感じる。
振り続け、振り続け…気づけば、一振りごとに威力や速度を自在に操り、軌道も正確にコントロールできるようになっていた。
剣の動きが自然に、そして確実に洗練され、まるで体自体が新しい技を理解しているかのようだ。
あれからというもの、師匠は出てこない。
孤独は深まり、もはや自分の名前も過去も忘れかける。
剣を振ることでしか、存在を確かめられない世界に閉じ込められた。
振り続け、振り続け...いずれ一振りが世界を切り裂くようになったその時...その時はやって来た。
体の中心から力が一気に湧き上がり、剣先に重さと鋭さが同時に宿る。筋肉の痛みや心臓の高鳴りが、逆に力を増幅させる感覚。
「烈ッ…華!」
一振りが空気を裂き、地下室の扉を粉々に吹き飛ばした。振った瞬間、風圧が体を包み、剣が空間を切り裂く感触が手に残る。威力、速度、軌道…すべてが体に馴染み、自然に思い通りに動く。
「ガッハッハ!よくやったじゃねぇか!お前の中で何も言わずじっとしてた甲斐があったぜ!」
師匠が出てきた...生きてたのか。
「お前のその顔...俺が死んだとでも思ったんじゃねぇのか?死ぬわけねぇだろ!もう死んでるんだから!ハハハ!」
「大体察してはいたけど...もう死んでたのか。」
「だけどここでお前とこうして会話している。それだけでいいだろ?」
師匠はたぶんまだいろいろ隠してる。でも...俺をここまで導いたのは間違いなく彼だ。
「ありがとう...そしてさよなら。」
感動的な別れだ。涙が出てきた。
「何言ってんだ!俺はお前の中に住んでんだぞ?このままついてくに決まってるじゃねぇか!」
…さっきの涙を返せ。