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覇剣

空気を裂く轟音とともに、王剣が震えた。

三人の護衛の忠義を吸い上げたその刃は、もはや一振りの剣ではなく、覇気を纏った生き物のように戦場に浮かんでいる。

観客席からは悲鳴と歓声が交錯し、誰もが息を呑んでいた。

そして、レオンハルトがその王剣に手を伸ばしたかと思うと...


「忠義は朽ちぬ。

 たとえ護衛が倒れようとも、その魂は決して潰えはしない。

 彼らが託した信義と誇りは、この刃と共に我が身に宿る。」


そうして、レオンハルトが手を取る。その瞬間、ただでさえ圧を感じたその剣がレオンハルトと一体化し、さらに圧を増したかのような感覚を覚える。


「汝らの奮闘、確かに見届けた。だが、それで王へ辿り着けると思うな。

 我が臣下は敗れてもなお、我を守り続ける。

 その忠義を、覇剣と化したこの王剣が証明しよう。」


そして、レオンハルトは俺たちへと剣を向ける。


「これが王の在り方だ。

 力を借り、命を背負い、忠義を抱いて振るう。

 覇剣よ、王の未来を切り拓き、この舞台に膝を屈さぬ者など存在せぬと示せ!」

「...来るぞ!」

俺が木刀を構え直した瞬間、レオンハルトが閃光のように突き込んできた。


「くっ……!」

木刀で受け止めた衝撃に、全身が震える。護衛三人の力を束ねたような重み。膝が沈み、腕が痺れて感覚が奪われる。


「リオール!」

ヴァレリスが炎剣を横合いから叩き込み、レオンハルトの軌道を逸らす。その刹那、炎の噴射で自らを後方へ吹き飛ばすように移動し、衝撃を逃がして再び剣を構える。爆発的な炎の推進力が、彼女の動きを加速させていた。


「さあ皆様! これぞ舞台の華、命を懸けた群像劇!」

アレクセイが声を張り上げ、外套を大きく翻す。カードが宙を舞い、俺とヴァレリスの幻影が現れて視界を覆った。観客席からどよめきが走る。


その間にオルテアの矢が不可視の軌跡を描き、王剣を掠めて弾いた。

「今だ!」

俺とヴァレリスが同時に踏み込み、炎剣と木刀を叩き込む。


火花が散り、一瞬だけ押し返す。だが覇剣は揺るがず、次の衝撃で俺たちを吹き飛ばした。


矢を放った直後、オルテアがその余波をまともに受けて地に叩きつけられる。必死に立ち上がろうとするが、弓を握る手が震えて動かない。

「……悪ィ……もう撃てねェ……」

悔しげに吐き、彼女は意識を手放した。


「オルテア!」

俺の叫びを掻き消すように、レオンハルトが光を震わせて迫る。


ヴァレリスが一歩前に出る。炎剣に力を込め、刃の根元から炎を噴き出させる。

「レオンハルト! 私はあなたを誇りに思う! だけど――ここで勝たなければ意味がない!」

炎の反動で身体が加速し、爆ぜる推力を纏った斬撃がレオンハルトの覇剣へ叩き込まれる。轟音と閃光が走り、一瞬だけレオンハルトを押し返した。


観客席から「ヴァレリス!」と叫ぶ声が飛び、場の熱気がさらに高まる。

だが次の衝撃で炎剣ごと弾き飛ばされ、彼女は壁際まで吹き飛んだ。剣を支えに必死で立ち上がるが、足が震えて踏ん張れない。


「主役が二人退場……? なにを仰いますやら! 舞台はまだ続いておりますとも!」

アレクセイが芝居がかった声で笑い、幻影を幾重にも展開する。幻の俺、幻のヴァレリスが複数現れ、覇剣を惑わせる。

「お客様! どれが本物の主役か――ぜひ目を凝らしてご覧あれ!」

観客席から大きなどよめきが起こり、誰もが幻と実の交錯に目を奪われた。


だが王は迷わなかった。幻影を次々と斬り裂き、本物の俺へ突き進む。


「アレクセイ!」

「主役を守るのも、道化の務めでして!」

アレクセイが自ら飛び込み、最後の幻影を展開した。だが次の瞬間、衝撃に弾かれ、外套を翻したまま膝をつく。

「……幕が下りるのは……もう少し先でございますよ……」

笑みを残し、静かに意識を手放した。


残るは俺とヴァレリスだけになった。


互いに肩で息をし、傷だらけの体でなお立ち上がる。

「……二人きりだな」

「それで十分よ。レオンハルトに挑むのは、私の使命でもある!」


俺たちは肩を並べ、同時に踏み込む。炎剣が轟音を立てて爆ぜ、ヴァレリスの身体を炎の推力がさらに加速させる。木刀と炎剣が覇剣と激突し、凄まじい衝撃波が走った。


「押してる……!」

観客席から悲鳴のような歓声が上がる。

「ナルキッソスが王を――!」


俺とヴァレリスは息を合わせ、木刀と炎剣を交差させる。

「リオール、合わせて!」

「任せろ!」

俺たちの一撃が重なり、炎が木刀を纏うように爆ぜて覇剣へ叩き込まれる。

その刹那、確かに覇剣を押し返した。


観客が一斉に立ち上がる。誰もが奇跡を見たと思った。

だがレオンハルトはすぐに凄絶な光を纏って逆襲してきた。


爆ぜる衝撃で俺たちは吹き飛ばされ、俺は地に叩きつけられる。必死に木刀を拾い上げるが、視界が揺れる。


その前で、ヴァレリスが炎剣を突き立ててまた立ち上がっていた。

「……リオール。」

血に濡れた頬で、それでも燃える瞳を彼に向ける。

「あなたが……レオンハルトを越えて!」


炎剣を支えにしたまま、その場へ崩れ落ちた。

観客席から悲鳴と歓声が交錯する。

「ヴァレリス様まで……!」

「ナルキッソスが……全員倒れるのか……!?」


俺は歯を食いしばり、木刀を構え直そうとした。

だが全身が言うことを聞かず、視界は白く染まっていく。


闇に沈む寸前、確かに感じた。仲間の声。仲間の想い。

それが胸の奥で脈を打ち、まだ消えてはいないことを。


戦いは...まだ終わっていない。

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