掴んだ勝利、迫る王剣
轟音と閃光。
闘技場を埋め尽くす歓声は、もはや悲鳴と歓喜の渦に変わっていた。
槍と盾が切り替わり、豪槌が大地を割り、双短剣が残像を生み出す。
忠義を映した三本の剣がそれをなぞり、王剣が死角を断ち切る。
「正面を割れぬなら、勝機はないぞ!」
グラウコスの声は轟き、槍が突き出される。
その鋭さは大砲の弾丸のようで、受けた木刀が悲鳴を上げた。
直後、厚刃の剣が真横から薙ぎ払う。
「くっ……!」
二重の圧力に押し潰され、視界が歪む。
俺の力では到底抑えきれない。
「リオール、下がって!」
ヴァレリスの炎剣が飛び込み、槍を逸らす。
その背を王剣が狙うが、オルテアの不可視の矢が割り込んで軌道を逸らした。
「ヴァレリスゥ!油断すンなよ!」
「助かったわオルテア!」
さらにアレクセイのカードが散り、幻影の俺が二人現れる。
グラウコスが一瞬視線を迷わせた隙に...。
「はああっ!」
俺の木刀が槍を弾き、ヴァレリスの炎剣が盾を押し飛ばす。
「……見事」
巨躯が揺らぎ、グラウコスが膝をついた。
だがその眼差しは敗北ではなく、誇りを宿していた。
「王の壁を越えるに足る力――確かに見届けた」
観客席から歓声が爆発する。
筆頭護衛が倒れたという事実に、誰もが息を呑んだ。
「ハッハッハ! まだ俺が残ってるぜ! 『ダリア』!」
豪快な笑いとともに、大槌が地を砕く。
轟音が走り、瓦礫が弾丸のように飛び散った。
「くそっ……!」
俺が腕で庇うが、直撃すれば危ない。
「任せて!」
ヴァレリスが炎剣で瓦礫を薙ぎ払い、そのまま大槌へ斬り込む。
「甘ぇな!」
ライサンダーの力任せの振り下ろしが、炎剣を押し潰さんと迫る。
そこへ幅広剣が重なり、二重の圧力となった。
「ぐっ……!」
ヴァレリスの腕が軋み、炎の刃が軋む。
「今だ、アレクセイ!」
「主演の増員を!」
カードが舞い、炎剣を構えた幻影のヴァレリスが三人現れる。
「チィッ...!そんなのアリかよ!」
ライサンダーが視線を迷わせた瞬間、本物のヴァレリスが逆側から踏み込み、剣を突き立てた。
「はああっ!」
巨体がよろめく。
俺が木刀で追撃し、オルテアの矢が幅広剣を弾き飛ばす。
連撃が重なり、ついに大槌が手から離れた。
「……豪快に負けるのも悪くねえ!」
ライサンダーが笑い声を残し、豪快に倒れる。
その姿に観客席はどよめき、敵ながら天晴れだと称賛の声が飛んだ。
「おっと、主役は最後まで残すもんだろ? 『デルフィニウム』!」
フェリクスの残像が五つ、六つと駆け抜け、双短剣と細刃が死角から迫る。
王剣の斬撃も重なり、俺たちは完全に押し込まれた。
「面白れぇだろ? どこを見ても俺だぜ!」
軽口を叩きながらも、斬撃は正確に急所を狙ってくる。
「……虚像に虚像を重ねるか」
アレクセイがカードを散らし、幻影の俺とヴァレリスが現れる。
残像と幻影が入り乱れ、観客すら目を奪われた。
「右が薄い! 本体は右!」
「任せろォ!」
オルテアが矢を放ち、不可視の一矢がフェリクスの肩を掠めた。
「ちっ……!」
残像が乱れた一瞬、ヴァレリスが炎剣で斬り込み、俺が木刀で叩き込む。
「……参ったな。けど、楽しかったぜ!」
笑みを浮かべたまま、フェリクスが地に伏した。
三人目の護衛が倒れ、観客席は総立ちになった。
誰もが信じられないものを見たような顔をしている。
俺は肩で息をしながら木刀を握り直す。
隣でヴァレリスが炎剣を掲げ、オルテアが弓を構え、アレクセイがカードを翻す。
皆、満身創痍。それでも四人揃って立っていた。
王の護衛はすでにいない。
残るはただ一人、レオンハルトのみ。
「これで……勝てる!」
声にならない声が胸を満たし、仲間たちの瞳にも確かな光が宿る。
四人で王を討ち果たす――そう確信できた。
観客席からも歓声が上がり、「ナルキッソスが勝つぞ!」と叫ぶ者さえいた。
だが、その希望は一瞬で打ち砕かれる。
「…皆、大儀であった。…忠義よ、還れ。」
低く響いた王の声。
倒れ伏した護衛たちを模した剣が震え、光を帯びる。
厚刃、幅広剣、細刃――忠義を写した三本の剣が、音もなく王剣へと吸い込まれていった。
「なっ……!」
俺は息を呑む。
刃が融け合い、一振りの王剣が膨れ上がっていく。
光は昼を呑み、闘技場を覆う覇気が押し寄せる。
呼吸が苦しい。全身が「跪け」と命じられているかのようだった。
「これが……レオンハルトの真の『グラディオラス』……!」
ヴァレリスの声が震える。
兄の剣が、護衛の忠義を糧にして新たな姿を見せようとしていた。
「いやはや……これは参った!」
アレクセイが口元を歪め、芝居がかった声を張り上げた。
「皆様、ご覧あれ! ここからは王の独壇場、我ら四人は脇役の端に追いやられる運命です! ……けれども、舞台というのはね、幕が下りるその瞬間まで誰にも結末は分からないものなんですよ!」
「クソがァ...!護衛倒してハイ終わりじゃァねェのかよ...!」
オルテアが歯を食いしばり矢を番えるが、腕は震えていた。
観客席から歓声と悲鳴が入り混じる。
「護衛を倒したのに……まだ終わらないのか!」
「いや違う……ここからが本番だ!」
俺は木刀を握り直す。
勝利の光を掴んだと思った矢先、
闘技場には圧倒的な覇気を纏った一振りが顕現していた。
戦いは、ここからが本当の地獄だった。




