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苦しみ

「ここは...どこだ...?」


気づくと俺は真っ暗な部屋にいた。上下左右も怪しくなるレベルだ。


「ウッッ!」


突然、頭の中に様々な感情がよぎる。

憎い...苦しい...痛い...熱い...寒い...

感情に支配されそうになる。手が震える、心臓が高鳴る。俺が俺じゃなくなるみたいな...


「適合段階で『共有』しちまってンのか...かなりいい器だな!このままにしておくと精神が崩壊するから...手助けしてやるか!」


よくわからない声が聞こえたかと思うと、急に全ての異常が止んだ。


「おう!目が覚めたか坊主!」


知らない半裸の男性が立っている。


「いろいろ聞きてぇことはあると思うが...まず慣れるのが先決だ。坊主、あとちょっとで精神崩壊、体は元の場所に一生閉じ込められることになるからな!」


とりあえず目の前にいる男について知りたい。

そんな欲求が湧いてきたが、とりあえずその欲求を鎮める。


「慣れるって言っても...何をすればいいんだ?」


「とりあえず慣らすところからだ。お前、さっき何を感じた?」


「地獄のような苦しみと...いろんな感情が一気に流れ込んできたな。」


「あぁ、そりゃ俺の『球根』のせいだ。」


球根?そういえば気を失う前に球根を食べたような...


「その『球根』には俺の『ヴェルディア(ヒガンバナ)』が込められている。まぁ簡単に言えば...お前は今、やろうと思えば2種類のヴェルディアを扱えるってわけだな!」


急にブッ込んでくるなこの人!?

2種類もヴェルディアを持っている人なんて聞いたことがない。双剣なら見たことがあるが、同じ花から派生した双剣だった。


「手の甲を確認してみな...右の手に芽があるはずだ。」

見てみると...あった。確かに右の手の甲、俺が普段見ていた方とは逆の手に芽がある。


「とりあえず...この芽を蕾にすることが前提だ。蕾になれなかったら、お前の精神が崩壊するが、些細な問題だな!」


些細なわけがないが...しょうがないだろう。


「というわけで、坊主には今から死んでもらう。」


「...は?」


そう言い終わると、急に景色が変わる。先ほどまでの男は消え、コロッセオのような場所に出る。


そして、俺がそれを知覚する前に...俺の体からは剣が生えていた。


「グァッ!?」


それと同時に感情が入ってくる。


俺は死ぬのか?家族はどうなる?決闘者の誇りはどうなる?ーーーーーーーー


様々な思考がよぎる。ただひとつわかることは、「これは俺の思考ではない」ということだけだ。

苦痛は続く。思考は続く。


気づけば、俺は元の場所に戻っていた。


「おお!帰って来たか!」


気分が悪い。


「はぁ...はぁ...アレは一体なんなんだよ...。」


そういうと、男はいつものような満面の笑みを止めたかと思うと、途端に真面目な顔になった。


「アレは死者の記憶。死んだやつが最後に体験した景色だ。お前にはこれをとにかく続けてもらう。俺のヴェルディアは...それに深く関係しているからな。」


あまりの恐怖に逃げ出そうとしたが、しばらく走ると同じ場所に戻された。


「返事は聞かねぇ。というか、お前にはそれ以外の選択肢がねぇ。このままだと...お前は記憶に耐え切れず、自害しちまうだろうからな。だが...これを乗り越えた暁には力が手に入るのも確か。耐えて見せろ。」

それはそうだ。今の俺には力が必要だ。

そう考えたとき、景色がまた移り変わった。


それから俺は地獄のような苦しみをずっと体験し続けた。


ある者は自身の弟子に殺された。

ある者は自身の能力を制御できなかった。

ある者は自身の奴隷に殺された。

ある者は仲間を守るため敵に立ち向かい死んだ。

ある者は不意打ちで殺された。

ある者は自然災害に巻き込まれた。

ある者は牢獄の中で一生を終えた。

ある者は呪われた。

ある者は空間の歪に飲まれた。

ある者は正々堂々と決闘を行い、惜しくも敗北した。

ある者は自身の能力の代償として死亡した。

ある者は........


そうして10000を超えたころ、俺は人々の苦しみに寄り添い、共感できるようになっていた。


「お前...かなりいい顔になって来たじゃねぇか。」


いつもの黒い空間(スタート地点)だ。師匠も一緒に。

最初こそ詐欺師だと思ったが、今では彼は死に寄り添うことのできる優しい人間だったことがわかった。疑ってしまったことを後悔している。


「そろそろ蕾を付けるころだろうな!確認してみろ!」


男の声に促され、手の甲を確認する。

芽は静かに、しかし確実に蕾を付けていた。光を宿すように、生命が宿るように…

その瞬間、胸の奥で期待と緊張が同時に走る。



「これが…俺の新たな力の始まりか…!」


そう感じた瞬間、俺は懐かしい地下室へと戻っていたのだった。

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