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ペイルの覚悟

「双方、用意...始め!」


学園長の合図とともに、両陣営が動き出す。


相手のヴェルディアの形状は...大盾、警棒、鞭、クロスボウか。

様子を見るに...リーダーはあの大盾の男...ガロか。


ガロは1年ながら優秀な能力を持ち、『ペオニア』にスカウトされたと聞いている。


「喰らえ~...『トレパドーラ』...」

「ちょっと申し訳ないですが...退場してくださいね~?『ミュゲ』~。」


ヴァインが鎖を伸ばし、アラエルが羽を飛ばす。

彼女たちの能力はかなり使い勝手がいい。


ヴァインは鎖を伸ばし、捕まえた敵から体力を吸収することが出来る。

アラエルは、鉄でできた羽を使って宙に浮いたり、羽を飛ばしたりすることが出来る。

双方ともとても強力な能力だ。だが...


「...甘い。『パエオニア』。」


ガロが間に割って入り、彼女たちの攻撃を防ぐ。

彼のヴェルディアの能力は何だ...?そう思っていると、ペイルたちが吹き飛ばされた。


なるほど...衝撃を吸収して放出するのか...厄介だな。


ペイルたちも気づいたようだ。何とか善戦はしているものの...実戦経験の差が出ているようだ。着実に追い詰められていく。


————————————————————————————————————————


はぁ...はぁ...な、何とかしないと...!

1回戦目、信頼して任せてもらったのに、僕のせいでみんな追い詰められていくばかり...

胸が締めつけられる。息ができない。


頭の中に「僕のせいだ」「僕のせいだ」という言葉だけが響き続け、他の音がかき消されていく。

大鎌を握る指先は震え、まるで氷に縛られたみたいに力が入らない。

視界が歪む。仲間が次々と倒れていく幻が、眼前で繰り返し流される。

その光景が、記憶か未来かさえ分からない。

けれど確かに分かるのは――全部、僕が原因だということ。


「皆さん?僕にばかり注目していてはいけませんよ?」

オスカー君の声が遠く聞こえる。


でも、どれだけ耳を澄ませても水底で響くようにくぐもっていて、意味を結ばない。

何とかしないと...何とかしないと...!

そう思っても身体は動かない。


足は竦み、心臓は乱打し、頭の奥では「無力」「役立たず」「足手まとい」という言葉が無数に木霊する。


そう思ってたら...まさに鞭使いの人と戦っているヴァインさんが声をかけてきた...

「ペイル~...緊張しすぎないで、だる~く行こうよ~...。」

「で、でも!」

「今回の戦いはペイル君がメインなのよ~?」


同時に、アラエルさんも話しかけてくる。

僕が...作戦の要?

――そんなはずがない。


僕は役立たずだ。臆病者だ。仲間の足を引っ張ることしかできない。

警棒使いの人の攻撃を受けながら考える。

でもやっぱり...

「僕なんかが...」


その言葉が口をついて出た瞬間、意識の縁が崩れ落ちる感覚に襲われた。

闇が押し寄せ、世界が遠のいていく。

精神が音を立ててひび割れ、完全に落ちる――その刹那。


「人は迷惑をかけてもいい、僕は気にしません。」

光が差し込んだ。

オスカー君の声が、絶望の深淵に杭を打ち込むように響いた。

「『迷惑をかけないように』って思ってるときの方が、人に迷惑をかけるんですよ。」


暗闇が砕け散った。

自分を押し潰していた声は跡形もなく消え、胸の奥に熱が戻る。

冷たく硬直していた心が、温かく動き出した。


今まで僕が敵に使われるかもと裂け目を出さなかったから負けた試合は何度もある。

でも、今回はみんながいる。みんなの方が相手より裂け目を使ってくれる。


僕も...みんなと戦っていいんだ!


そう決意した途端、体の底から力が湧き上がってくるのを感じる。

自分でも初めて感じるような力も同時に感じる。

その瞬間、手の甲に刻まれていた『蕾』が脈打つように輝き、ひとひらの花弁が音もなく開いていく...。

————————————————————————————————————————


ふう、うまいこと行きましたねぇ。

ペイル君は強いんですが...どうも弱気でねぇ。

僕は彼の強さを知っています。彼は強い。間違いないです。


そして、今彼を縛っていた鎖は解き放たれました。

ここからは...彼の舞台を愉しむとしましょうか!

…おっと、少々思考がアレクセイ君寄りになってしまっていましたかね?


「お前の瞬間移動...味方の方には使わせない!」

厄介ですねぇ。僕の転移はシンプルがゆえに対策も簡単なんですよねぇ...。


ま、それも『僕だけ』の話なんですが。

そうして、僕はあらぬ方向へとナイフを投げる。


「血迷ったか?」


「おっと...これは少々まずいかもしれませんね?」


観客がざわつく。それもそうですよねぇ、戦ってる最中に急にヴェルディアを手放したんですから。


でもね、僕が狙った方向は...『アレ』があるんですよ。


そうして、僕のナイフは『裂け目』の方へと飛んでいく。そして、クロスボウ使いの後ろの『裂け目』から出てくる。


ペイル君...あなたが作戦の要である理由、分かりましたか?


「どこへ...!?」

「ダメじゃないですか、相手から目を離したら。」

「なに...ぐぁッ!」


そうして、僕は名も知らぬクロスボウ使いの意識を刈り取るのだった。


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