決戦への布陣
その日の夜。俺は自分の部屋のバルコニーにいた。
アレクセイ達との戦いで激しく疲れているはずなのに、自然と眠る気になれない。
クランバトルまで、もう時間はほとんど残されていない。
考えれば考えるほど、穏やかな夜風とは反対に、胸の奥が嵐のようにざわつく。
「…いたのね。こんなところで何してるの?」
横を見ると、ヴァレリスが俺と同じように夜風に当たっていた。
いつもの鋭さはなく、肩の力を抜いた彼女が月明かりに照らされている。
「別に。ただ…ちょっと、気持ちを落ち着けたくてな。」
「ふうん。アンタにしては珍しいじゃない。緊張してる?」
「…まあな。お前は?」
「似たようなもんよ。」
「そうか...。」
言葉が続かない。普段は自然に話せるのに、今日に限って。
「特訓が始まってからのアンタ、ちょっとだけ...カッコ良かったわよ。」
「なっ...急に何言ってんだよ。」
「別に、思ったことを言っただけよ。
ヴァレリスは肩をすくめ、視線を夜空へと向ける。
「アンタって、変わったわよね...」
小さく呟くその声が、夜風に混ざる。
「最初会った時にはあんなにムカついてたのに..今では悪くないと思ってる。」
俺は答えられず、ただ空を見上げた。
だけど、少しだけ、ほんの少しだけ、胸の奥が熱くなるのを感じた。
最初あんな出会い方をしたのに、こんな会話をするなんて、想像もしなかった。
「じゃ、私は寝るわ。アンタも早く寝なさいよね。」
そうして踵を返したヴァレリスの横顔は、炎ではなく月光に照らされる。その光景が、なぜか目に焼きついて離れなかった。
次の日、ホームルームにて。
「本日、クランバトルのチームについて決めんと思ふ。先に申したごとく、リオール君は二度出場せしむるが……異論ある者はおるか?」
カミヤ先生のその声に反論する者は誰もいなかった。
「よかろう。それでは各々、話し合ひてチームを決むるがよい。時をかけても構はぬ、勝ち得るチームとせよ。」
さて...どんなチームにしようか...
「皆さん?僕からの提案なんですけど...能力的に組みたいチームメイトを言っていくのはどうでしょう?」
オスカーが提案をする。
ふむ、確かに一理ある。特訓でお互いの能力は把握しているからな...。
そうして、各々が組みたいチームメイトを宣言していく。
「提案者ですし、まずは僕から...僕はペイル君と組みたいですねぇ。面白い使い方も見つけたことですしね。」
「私はリオールと組みたいわね。連携がとりやすいもの。」
「俺は...イゾルデと組みたい。遮蔽があるというのは...射手にとって大きなアドバンテージだ。」
そのようにしていると、自ずとチームが見えてきた。
そして、カミヤ先生が黒板に三つのチームを書き終え、チョークを置いた。
「一回戦――ヴァイン、アラエル、オスカー、ペイル。」
一回戦には俺は出ない。その代わり、優秀なメンバーを集めたつもりだ。
「えぇ~……一回戦から~……?」
机に突っ伏したヴァインが、ダルそうな声をあげる。
「あらあら、そう言わないの。ちゃんと頑張らなきゃダメよ~?」
アラエルが笑いながらヴァインの背中を軽く叩いた。
「二回戦――ザミエル、リオール、イゾルデ、オーウェン。」
ザミエルとイゾルデ。相性が抜群なこのコンビを入れ、前線を維持する役目として俺とオーウェンが入る形だ。
「おっしゃ!リオール!一緒か!燃えてきたぜ!」
オーウェンは豪快に拳を鳴らし、教室の空気を一気に熱くする。
「うん!絶対負けないから!」
イゾルデが椅子から勢いよく立ち上がり、元気いっぱいに拳を突き出す。
「……やりがいがあるな。」
ザミエルは短く、しかし力強くつぶやいた。寡黙な射手の目が静かに燃えている。
「そして、三回戦――オルテア、アレクセイ、リオール、ヴァレリス。」
これはまた...個性の強いチームになったな。アレクセイがいる以上、彼の『公演』に翻弄されることにはなるだろうが...彼の実力は本物だ。
「テメェら、最後の試合は気合入れていくぞォ!」
オルテアが椅子を蹴って立ち上がり、豪快に腕を回す。
「ふふ……楽しみですね!舞台は整いました。最高の演技をお見せしましょう!」
アレクセイがカードをひらりと指で回し、演劇の役者のように微笑む。
「私がいるんだから負けるわけないでしょ!」
ヴァレリスは炎のように勝気な笑みを浮かべている。
そのとき、最初に呼ばれたペイルが、机の影からおそるおそる手を挙げる。
「えっ、その……ぼ、ぼく、ほんとに一回戦でいいんですよね……?あの……迷惑かけないように頑張ります……!」
「おやおや、ペイル君、そんなに緊張しなくても。特訓の成果を見せればいいんですよぉ?」
オスカーがペイルに向かって愉しげな笑みを浮かべながらそう言う。
教室には熱気と、それぞれの強烈な個性が入り混じった空気が漂っていた。
決戦の時は、もうすぐだ。